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江戸っ子が「そば」食べ始めたのは、「江戸患い」がきっかけ
【健康に効く食べ物】
新そばの季節である。“そばっ食い”にはたまらない時季である。さて問題です。江戸時代、江戸っ子たちがある時、急にそばを食べ始めた出来事がありましたが、それはなでしょうか。答えは「江戸患い」だ。(2004.10.07掲載)
江戸患いとは「脚気」のことである。18世紀の中頃、江戸では脚気が大流行だった。なぜかというと、急に食料事情が良くなったんだな。つまり、精米した白米を潤沢に食べられるようになったのだ。
ご存知の通り、米は精米すなわち削れば削るほどうまくなる。全国的に米の増産が進み、江戸には大量の米が流通するようになった。結果、米を“贅沢な”加工を施して食べることを覚えてしまったわけだ。
ところが、米がうまくなる引き替えに失ってしまったのが栄養分。特に玄米段階では豊富に含まれていたビタミンB1の摂取が決定的に不足するようになってしまった。その結果、ビタミンB1欠乏が原因の脚気が横行するようになった。
●死者が出た「脚気」
そういえば、覚えていませんか? 子供の頃、学校の定期健診で、医者がゴム製のトンカチみたいなものでひざをコンと叩いたことを。あれは脚気の検査だった。
とにかく、当時、脚気は原因が分からない奇病だった。なんだか体中がだるい、手足がしびれる、爪先が上がらず、つまづきやすいなどの神経症状が出てくる。神経症状などという考え方は、むろん当時の人はしないが。
循環器系にも症状が出てくる。動悸息切れが激しくなる、胸が圧迫されるような感じがする、顔や足がむくみ始める。たしか、足を手の指で押さえると、そのまま戻らないということを聞いたことがある。これが「心臓脚気」という状態だ。さらにひどくなると、心臓が肥大して脈拍数が著しく増加し心臓機能が衰え、死亡に至ることもある。
うまい米をたべるようになって、こんな死に方をする江戸っ子が急増し始めたわけだ。「どうにかなんねえもんか」と思っている時に、ふと目に付いたのが地方から出稼ぎにきた人々の姿。彼らの姿が目立つのは「そば切り」の屋台で、だった。そして、彼らが江戸患いてゃ無縁であるらしいことも知られ始めていた。
出稼ぎ人が好んで食べているものがそば切りで、彼らが江戸患いにかからないことに気づいた江戸っ子たちは、「そば切りは江戸患いに効くらしい」とすすんで食べ始めたという。たしかに現代の食品成分分析から見ても、ビタミンB1の含有率には違いがある。精白米0.12に対して、そば粉(全粒粉)0.46と4倍近い含有量だ。
●ビタミンB1が不足
しかし、そんな昔の話を聞いてもしょうがない。今は脚気などかかるやつはいないだろう、と思ったあなた。それは認識不足というものだ。試しに先ほどいった症状に身に覚えはないか。足を押してみてへこんだままではないだろうか。脚気は現代人にも忍び寄っている危険なのだ。原因はむろんビタミンB1不足である。
江戸時代は白米への依存度の高さが問題だったが、現代はいわゆる清涼飲料水やインスタント食品の食べすぎが大きな原因になっている。ようするにこうしたイン飲料や食品ではビタミンB1摂取は不可能。したがって、こうした不摂生な食生活を改善して、栄養バランスがとれた食生活を心掛けようということに帰結するわけだ。
そばを食べて脚気を予防――だが、そばの効用はこれだけではない。各種のビタミン類、ミネラル類、たんぱく質、炭水化物などがバランス良く含まれており、われわれが考える以上に優れた食品なのである。
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●旭利彦
1958年、神奈川県生まれ。旅行会社、スーパーマーケット業界紙、海外旅行専門誌などを経てフリー。99年から02年まで週刊新潮で「よろず“医者いらず”」を連載。著書に「よろず医者いらず」(新潮社)など。健康・医学分野で執筆中。HP(http://www.asahi-t.com/)でも健筆を振るう。
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