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盲腸を診る医者がいなくなる!?
【サラリーマンを襲う病気】
急性虫垂炎、いわゆる「盲腸炎」になっても、診てくれる医者がいなくなるかもしれない―そんな話が医療の世界でささやかれているのをご存じだろうか?(2005.11.25掲載)
実際には日本では「医師法」という法律で、治療を求めて医療機関にやってきた患者を追い返すことは許されていない。このため、盲腸炎になってもきちんと治療を受けることができるのだが、ではなぜそんなうわさ話が流れるのか。
「急性虫垂炎の治療に設定されている診療報酬が非常に低いんです。医療機関としては治療をするうま味がないので、できることならやりたくないという本音が、そうしたうわさ話になっているんでしょう」と語るのは、医療経営に詳しいジャーナリストの星野光彦氏。
表を見てもわかるとおり、急性虫垂炎の治療にかかる平均的総医療費の国際比較を見ても、日本の診療報酬が非常に安く設定されていることがわかる。これはどういうことなのか。
「昔からある手術については総じて診療報酬が低く設定されていますが、急性虫垂炎は特に安い。経営的に見ると、非常につらいところです」
神奈川県内にある民間病院の医事課長はそう明かしながら、次のような実例をあげる。
「たとえば脳梗塞の後遺症などで嚥下(えんげ)障害を起こし、食事が困難になった人の胃に直接栄養供給するための『胃ろう造設手術』という簡単な手術がありますが、この手術の診療報酬が9万4000円。基本的に入院も短く、15―20分で終わる手術ですが点数は高い。それに比べると急性虫垂炎は1週間前後の入院をするとはいえ、安すぎます」
安いなら安いなりに手術が簡単ということはないのか。元永寿総合病院外科副部長で、横浜にある五十嵐外科胃腸科医院の五十嵐直喜副院長が解説する。
「急性虫垂炎は外科医にとっては基本的な手術ですが、決して簡単というわけではありません。患者側には『盲腸』というだけで安心感があるので、あまり大きく切開するわけにもいかず、手術する部位の術野を確保するのが難しいことがある。また術後の傷口の感染を防ぐためのケアも、意外に手間がかかります」
ちなみに、虫垂炎とほぼ同額の診療報酬の手術に「そけいヘルニア」があるが、五十嵐医師によればこの2つの手術の難易度は違うという。
「そけいヘルニアは日帰り手術でもできる予定手術。一方の虫垂炎は基本的に緊急手術なので、スタッフの緊張感だけでも大きく異なります」。
これは経営的にも言えるようで、「緊急手術は休日や時間外になることもあり、スタッフの確保も大変」(前出の医事課長)。
ちなみに現行の診療報酬で虫垂炎手術をした場合、病院の利益は2-3万円ほど。手術が時間外に及んで医師や看護師がタクシーで帰宅しようものなら、あっという間に赤字になる。
治療費が安く済むこと自体は患者にとってはありがたいが、それで病院が潰れてしまっては元も子もない。くれぐれも「虫垂炎を診てくれる医者がいなくなる」なんてことがないよう願いたい。
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