この記事を読む方におすすめの記事
今!気になるレビュー
【ライフ】「外こもり族」の生態をタイ・バンコクに追う
【食とレジャー情報】
今や若者だけでなく、中高年の間でも問題になっている引きこもりやニート問題。それに加えて最近では、日本で短期間働いては、物価の安い海外に長期間滞在する「外こもり族」と呼ばれる人々が、ジワジワと増えている。近年、日本人が急増しているタイ・バンコクを訪れ、彼らの実態に迫ってみた。(2006.05.15紙面掲載)
「外こもり族」とは、いったいどんな人々なのか。
中長期に海外暮らしを実践し、うらやましそうにも思える。だが、“こもる”の言葉どおり、外国にいても観光するわけではなく、一日中宿から一歩も外に出ない者さえいる。
「彼らは1泊数百円の宿に滞在し、食事も宿の食堂か近所の屋台で安くすませます。残りの時間は本を読むか同じ宿の仲間とおしゃべりをするなどして、のんびり過ごしています」
そう説明するのは、海外移住事情に詳しい旅行作家の下川裕治さん。
外こもり族の大半は、同じ宿に長期間滞在し、その間の移動は、滞在期間(タイは、ビザなしの場合で30日)を延長するために隣国などに一時出国する程度だという。
「みんな日本で短期の仕事をこなして100万円ほど稼ぎ、その金で海外に滞在します。なかでも現在、多くの外こもり族が集まるのがバンコク。街は近代的なのに物価は安く、コンビニやファストフード店、ネットカフェなども充実し、日本と変わらぬ生活が送れます。とくに旅行者街として有名なカオサン地区には宿泊者の大半が日本人の“日本人宿”が何軒もあるため、今や彼らの聖地と化しています」(下川さん)
そんなカオサン地区を代表する日本人宿のひとつが「カオサントラベラーズロッジ」。オーナーの荒畑栄一郎氏によると、「ウチの宿泊客にも3~5年と外こもりを続ける方がいます。ここ数年、そういう人は確かに増えていますね」という。
外こもり族で目立つのは20~30代の男性だが、40~50代も増えている。いずれも独身で、離婚経験を持つ者も少なくない。
「ありがちなのは、衝動的に外こもりになったケース。そのまま、あまりに居心地がいいのか社会復帰が難しくなるようです。『○○が日本で就職したらしいぜ』なんて話が、めずらしそうに、うわさになるくらいですから」(下川さん)
外こもり族の本音を聞いてみよう。そもそもなぜ彼らは、海外に出たのか。
36歳の男性、Nさんは会社員だった。それまで都内の一般的な企業に勤めていたが、5年前、突然辞めてタイに来た。
「衝動的でした。最初はただアジアを横断する予定でした。それが、いつまでもたっても出発できず、ズルズル残っちゃって。こっちはビールも安いし、宿にはマージャン卓や将棋、数千冊の本など長居させるためのアイテムがたくさんあるんですよ」
そう言って苦笑した。
ビザや生活資金の関係で、たまに帰国する。そのつど、渡航資金は、帰国途中に仕入れた民族雑貨を国内で売ってしのいでいる。だが、「これで事業を起こす気はない」という。
将来への漠然とした不安はあるが、「サラリーマン時代と違ってストレスはないですし、可能なら、もうらしばらく今の生活を続けたいですね」というNさんは、なかなか抜けられそうにない。
34歳の男性、Tさんは大手通信メーカーの元契約社員。10年近く働いたが、正社員でないゆえ仕事への意欲が低く、辞めるときも、あっさりしたものだったという。
「今は、日本に帰ると、引っ越しや建設現場など少々ハードで高収入のバイトをしています。3カ月がんばれば、50万円はたまるので、それでタイに3~4カ月滞在。気楽ですが、昔の友人とは疎遠になっちゃいましたね」
Tさんは、シミジミ話した。
ほかにも帰国後、その足で住み込みOKの農場や工場に向かう者も多い。こうした短期アルバイト先の情報は、外こもり族同士で交換しているのだという。
外こもり族から、住民票を海外に移したり、アパートを年間契約したりと本格的な移住へと進む人も、中高年を中心に確実に増えている。
下川さんは、「格差社会の拡大に伴って、彼らのような外こもりは今後ますます増えるでしょうね」と語る。
一部の大企業は好景気に沸いていても、下流社会、年収300万円-という現実に、ニッポンを見限った人々。自立している分、ニートよりは、マシかもしれないが、根っこにある問題は深刻なのだ。
------------------------------
■しもかわ・ゆうじ
旅行作家。1954年、長野県松本市生まれ。慶応大卒。新聞社勤務を経てフリーランス。現在、外こもりに関する書籍を執筆中。近著に『もっと好きになっちゃった沖縄』『香田証生さんはなぜ殺されたか』など。
