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ビールの香りにリラックス効果
【健康に効く食べ物】
生ビールのおいしい季節がやってきた。泡立つジョッキを握り締め、ゴクゴクとやれば、仕事の疲れもストレスも吹っ飛ぶというもの。おまけにビールにはアルコールの働きだけでなく、香りの成分にリラックス効果があることがわかってきた、というからうれしい。(2006.05.24紙面掲載)
■“関所”を通過
「嗜好飲料の香りの成分が精神安定剤などと同じようなルートで脳に達し、安らぎの効果を示すと考え、これまでウイスキーやウーロン茶などで研究を進めてきました。今回、動物実験などの結果、ビールの香りの成分でも効果があることがわかり、それも中ビン程度の量を飲めば効果が得られそうです」と青島均・山口大学大学院教授(医学系応用分子生命科学)が説明する。今年4月、米国化学会が発行する国際的な食品誌に発表したこの研究成果は、サントリーとの共同研究だ。
人の体内には、ストレスを和らげるための成分が存在している。その1つがGABA(γ―アミノ酪酸)だ。GABAは脳の中で働いているのだが、脳の中でこれを増やそうと食品などの形で摂取しても直接脳には届きにくいという。
「脳に通じる血管には血液脳関門という一種の“関所”があり、油に溶ける精神安定剤などは通れるが、水にしか溶けないGABAは通りにくいのです」
それがこれまでの研究で、ウイスキーとウーロン茶の香り成分は油に溶けるため、血液脳関門を通り抜けて脳に入り込み、さらにGABA受容体の働きを強め、もともと脳の中にあったGABAの働きを高めることが突き止められたという。
ビールではどうか。GABA受容体を持っているカエルの卵にビールの香り成分を加えたら、加えない場合に比べ平均1・5倍もGABA受容体の働きが活発になった。
次に、マウスに「ミルセノール」というビール特有の香り成分を吸わせてみた。
「ミルセノールを吸入しない場合に比べ、これまた睡眠時間が1・5倍も長くなり、それだけ安らぎ効果が高まることが確認できました」
■アルコールの数千倍
もともとビールには、どんな香り成分が含まれているのか。
「そのすべてがわかっているわけではありませんが、ミルセノールなどが主で、これに酵母が発酵してできるエステルの香りなどがミックスされています」
ビールを作るときにホップを添加することによってミルセノールの他、ラベンダーの香りのするリナロール、バラの香りのゲラニオール、マツタケの香りの1―オクテン―3―オールなどの香り成分ができる。
「今回の動物実験では特にゲラニオール、1―オクテン―3―オールなどの安らぎ効果が高いことがわかりました」
さらにアルコール成分、つまりエタノールも香り成分に比べると数千分の1にすぎないとはいえ、GABA受容体を活発にして安らぎの効果を高める働きがあるという。
■プラセボ効果
香りはふつう 嗅覚(きゅうかく)系といって、鼻の中ににおいを感じる嗅細胞があり、嗅神経を通して脳ににおいの刺激が伝えられ、においとして感じる。
しかし、一連の研究で青島教授が明らかにしてきたのは呼吸によって鼻から肺に入り、その後、血流に乗って脳に運ばれる「第2のルート」だ。「これは完全には証明されておらず、まだ“仮説”の段階です」というが、もともと森林浴やアロマテラピーの場合、その香り成分のフィトンチンドや精油(植物の揮発性の油)が第2のルートで脳に入ると考え、今回の研究でさらに確かなものになってきた。
「まだ香り成分の安らぎ効果の科学的研究は遅れているが、精神的なプラセボ(偽薬)効果、つまり“高級ウイスキーやおいしいビールを飲める”と考えただけで安らぎ効果がぐーんと高くなる、ということもあるようです」
考えただけで安らぎ効果が得られるなんて、安上がりでとってもハッピーだ。
「ビールの香りの作用は、睡眠薬などの薬物にくらべてはるかに弱いが、副作用はほとんどない。生理的なバランスが崩れたときに基にもどす手助けをしてくれます」
少量で安らぎを得られるのもいいネ。
■GABA(ギャバ) ガンマアミノ酪酸が正式名称。脳の中にあって、神経の信号を伝える神経伝達物質。脳の中で「GABA受容体(GABAを受け取る器官)」というタンパク質と結びついて脳の興奮を鎮め、気持ちを落ち着かせる働きがある。 胚(はい) 芽(が)玄米などに多く含まれており、健康食品としてもてはやされた。ただ、食品などの形で摂取しても、脳には入りにくい。
