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「狼花― 新宿鮫IX」大沢在昌著
小説には良い小説と悪い小説しかない、と言ったのは誰だったか。ジャーナリズムは、便宜上、小説をさまざまに分類する。このシリーズの何作目かを紹介したとき、主人公、鮫島と恋人晶との関係が、ハードボイルドにしては甘すぎないかとケチをつけた記憶がある。
いま思うと、犯罪者から“新宿鮫”と恐れられている鮫島警部の性格(キャラクター)設定に合わないと感じただけで、何もハードボイルドを持ち出すことはなかった。もちろん、そのせいではないが、今回、晶はほとんど登場せず、著者の言葉だと今後も出番が減るらしい。
代わってというわけではないが、登場するヒロインは不法滞在の中国人・明蘭。日本で金をため北京の大学に入ろうという志が、「盗品マーケット」を運営する元は公安警察にいた深見との出会いから非合法の世界へ入り込むことになる。
今回、鮫島が追う犯罪者たちは、明蘭や深見にしろ、二人とからんでくる日本最大の暴力団稜知会幹部の毛利にしろ、単純な悪玉でなく、人間的な幅をみせているところが興味深い。
対立が鮮明に出るのは、むしろ警察内部の 軋轢(あつれき)。元キャリアの鮫島とは同期ながら、一見敵役にもみえる警視庁のエリート警視、香田が、激増する外国人犯罪者を排除するため、暴力団を利用するという奇策の先頭に立って前面に出てくる。法と正義を信奉する鮫島は、これに抵抗、孤独な捜査を進める。
鮫島を知らなかった下町のヤクザがぼやく場面など、鮫島の単独行は、相変わらずかっこいい。しかし、今回は犯罪のグローバル化に対応しきれぬ警察、横行する大麻をはじめとする麻薬など闇社会の実態の描写が綿密で、全体に締まった感じを与える。シリーズの中でも抜群の力作だろう。(光文社・1680円)
