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温泉の効能を過信して死にかけた!
日本人は温泉好き。しかし好きが高じて温泉に対して過度の期待を持つ人も多い。体にいいはずの温泉も、時に誤った付き合い方をしてしまい、ひどい目に遭うこともある。都内に住む会社役員のMさん(58)は、療養目的で出かけた温泉で、逆に命を落としかねない事態に見舞われた。
数年前のこと、妻と2人で栃木県内のある有名温泉に出かけたMさん。その半年前に受けた人間ドックで肥満から来る動脈硬化と、それに伴う狭心症の疑いが指摘されていた。しかし精密検査を恐れていたときに知人から「動脈硬化に効く温泉がある」と紹介され、湯治目的で3日間の休みを取ったのだった。
旅館に着いて温泉の効能書きを読むと、確かに効能の初っぱなに「動脈硬化」の文字。安心して入浴を開始した。
何しろたまの休みで久しぶりの温泉。まして今回はこの温泉で動脈硬化をなんとかしようという魂胆もあって、Mさんは寸暇を惜しんで温泉に入った。着いた日は夕方から3回、2日目は朝から夕食前までにじつに5回の入浴を果たした。そして夕食で軽く一杯やった後、6回目の入浴に向けて小雪の降る露天風呂に向かった。
湯は熱かったが、「寒いよりは心臓にいいはず」と考え、我慢してつかった数分後、胸に走る激痛。あわてて脱衣所に戻ろうと湯を出たところで身動きできなくなりうずくまった。丸めた背中にしんしんと降りつのる雪の冷たさに、Mさんは人生の終わりを予感したという。
運よく直後に来た他の客が発見して救急車を手配。しかし温泉場だけに救急車が到着して病院に運び込まれるまでに1時間近くを要した。
幸いにもギリギリのところで治療が間に合い、Mさんは九死に一生を得たが、あの時の恐ろしさは今思いだしても冷や汗が出るという。
「温泉を過信してMさんのような事故を起こす例はとても多い」と話すのは日本温泉気候物理医学会認定温泉療法医で東京・世田谷区にある井上外科胃腸科病院院長の井上毅一医師。「いくら動脈硬化に効果のある成分が入っているとはいえ、入り方を間違えれば逆効果。まして狭心症ともなれば十分な注意が必要」と警鐘を鳴らす。
井上医師が特に注意を呼びかけるのは次の3点。(1)食後3時間は入浴を控える、
(2)入浴は1日4回まで、
(3)心臓に問題がある人は熱い湯を避けてぬるめの湯にゆっくり入る
―。Mさんはそのすべてを誤っていたことになる。特に井上医師は、「熱い湯の中なら安全だろう」と考えて無茶をする人は少なくないという。
「入浴直後は交感神経が優位になるため血圧が上がるので要注意。特に飲酒直後や湯につかりながらの飲酒は自殺行為です」と井上医師。
ちなみに井上医師によれば、本当に病気治療を目的に温泉に行くなら最低でも1週間の滞在が必要とのこと。過度の期待は禁物だ。(2007.01.17紙面掲載)
