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「巨船ベラス・レトラス」筒井康隆著
裏表紙の帯「出版界騒然!文壇慄然!読者は呆然!」を見て、30年前に出た著者の『大いなる助走』を思い出した。
詳しいことは忘れたが、文壇の内情を暴露、戯画化した小説で、とくに著者が何度か選に漏れた直木賞の選考委員の俗物性が、とことん、からかわれていた。
委員の一人は発行元(直木賞の勧進元でもある)の文芸春秋にどなりこんだというから、この時はたしかに帯のような状況だった。
しかし、その後の氏は、SF関係の賞はもちろん、いわゆる純文学の分野でも川端賞、谷崎賞、読売文学賞と名だたる賞を総なめしている。名前こそ大きいが、新人賞に過ぎない直木賞への私怨(当時そう言われた)など、とうにないであろう。
何が今の文壇を騒然慄然呆然とさせるのか、と野次馬気分で読み始めたら、これは当時よりさらに危機的な状況に陥っている文壇、出版界、読者層の問題を総ざらいした作品だった。
読書の習慣が無くなった若い人の傾向が中高年にまで及んでいること。話題をねらった出版社による受賞者の低年齢化。作中の新人賞選考委員は「本当はマンガにしたいけど絵が描けないから小説にした、というのが最近は多い」と語る。
他社との競合と書店の棚を埋めるため、大量に出された新書版ノベルスなど質の低下による読者離れの加速。緊密な関係が薄れた純文学とエンターテインメントの“面白くなさ”の相互影響。
途中、作中人物の一人として筒井康隆なる作家が登場、自分の作品の海賊版問題の経過を実名をあげて語り、インターネット時代が著作権侵害をふやしているとも指摘する。あれやこれや解決不能?の問題を載せて文壇巨船は破滅へ向かうのか。
(文芸春秋・1200円)(2007.04.03紙面掲載)
