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「復讐するは我にあり」佐木隆三著

復讐するは我にあり 30年前、この作品が直木賞を受けたとき、某社の記者が、これは『冷血』だ、と言った。ニュージャーナリズムの源流とまで言われたT・カポーティのノンフィクション・ノベル『冷血』を知らなかった私には、劣等感を刺激する言葉だった。

 以来読まねばと思いながら30年。先日本屋で見かけて買ったばかりのところに、著者が旧著を手直しした佐木さんのこの本頂いた。偶然だろうが、昔、新宿の飲み屋で佐木さんと出会っては酔っ払い同士の抱擁を交わし、時にザル碁などを戦わした私としては、ただの偶然とも思えない。
 こう書いてくると、身びいきと取られそうだが、私には『復讐―』の方が正直、はるかに面白かった。米カンザス州の一家4人惨殺事件(冷血)と、全国を恐怖させた連続殺人事件(復讐)を長期間にわたり克明に取材、逃走から逮捕、絞首刑に至るまでを綿密に再現した手法は全く同じで『冷血』がすぐれた作品であることに異議はない。 出てくる風土、世間、人情に馴染みがあるか、ないかの違いもある。『復讐』では冒頭、最初の死体発見者である主婦が嫁とのいさかいをぼやく場面がある。風景描写にはじまる『冷血』にはないユーモアに最初からひかれ、一気に読んだ。
 犯人に接触した女性理髪店主の刑事に対する福岡弁の啖呵。教会まで巻き込んだ犯人の複雑で巧妙な手口。全国を叉に掛けたスリリングな足取り。目の曇った大人には見えない犯人を見破った少女の直感。犯人は取り調べや現場検証、刑執行など重要な場面でかすかに鼻歌を歌う。警官にも検事や弁護人にも理解できなかったその理由を、客観描写に徹した著者は、犯人の言葉で「引かれ者の小唄」としか書いていないが、よく分る。まったく、こうなれば鼻歌でも歌うしかないではないか。(弦書房・2520円)(2007.04.10紙面掲載)

「復讐するは我にあり」

投稿日: 2007年04月30日

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