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徹底検証!地震・津波の「言い伝え」は本物か?

 先頃、消防庁が全国に伝わる災害に関する「言い伝え」を集めたデータベースを作成、ネットで公開した。「過去の災害経験を後世に伝えたい先人の強い思いを読み取ってほしい」と、「学術的な裏付けがないものある」との断り書きが付いている。実際は、どうなのか。専門家が地震・津波にまつわる民間伝承を徹底検証した。

【困難な予知】
 日本政府は、文部科学省に「地震調査研究推進本部」を設け、全国の地震学者を動員して地震予知に取り組んでいるが、なかなか当たらないのは周知の通り。

 消防庁も藁にもすがる思いで「言い伝え」を集めたのか、とまで邪推したくもなるが、地震学者でありながら『公認「地震予知」を疑う』(柏書房)などの著書があり、政府の地震予知体制に批判的な元北海道大学教授の島村英紀氏は話す。

 「地震予知は30年前、バラ色の将来に見えた学問でしたが、研究が進めば進むほど、前兆なく大地震が発生したり、前兆があっても地震が起きないなど、前兆がアテにならなくなってきた。また、地下で何が起きているのかがよく分からないまま、前兆だけをとらえて意味があるのかという反省もあります」
 
【青葉の頃は安全!?】
 別表にはないが、近い将来の大地震が懸念される東海地方には、「青葉の頃は安全だ。茶色くなったら気をつけろ」という伝承がある。東海地方を襲った過去の大地震13回のうち5回が12月に発生、残る8回も8月から2月の間に起きていることが“根拠”になっている。

 「確かに、これほどの偏りは統計学上2%しかない。しかし、なぜ、冬に大地震が多いのかは解明されていません。冬は夏より平均10hPa高い気圧が誘因だという説を唱える向きもありますが、それもまだ分かっちゃいない。とすると、こんな伝承は学んでもらっちゃ困る」と島村氏。

 「そもそも、言い伝えを集めることに意味があるのか。一般の人が、意味ある伝承と思ってしまえば、裏目に出ることもありえる」と手厳しい。
 
【竹藪に逃げろ!】
 その上で、各論を検証してもらった。
 まず各地で広く伝わる「高台に逃げろ」については、「津波対策であり、間違いではない」が、「竹藪」には、「竹の地下茎が土壌を安定させるためでしょうが、地割れに人が飲み込まれた例はほとんどないし、どんなに大きな地震でも実は最初はせいぜい15秒程度で収まる。近頃は近所に駆け込める竹藪自体もないでしょう」と実効性を疑問視する。
 
【便所に逃げろ!】
 昔なら便所の個室が相対的に丈夫だったかもしれないが、「現在はうっかり狭いところに入って逃げられなくなることの方が怖い」とみる。

 「火床に摺り鉢をかぶせ…」など火の始末についても、「現在では耐震消火装置なども普及しており、“火の始末はよせ”ということになっています」と指摘する。
 
【地震雲】
 大地震が発生するたびに、「地震雲」の報告例が寄せられるが、「地震雲とされる鰯雲などは気象学的には、いつだって出現しうる。それに日本では1日に大小1万個の地震が起きているから、予測にはなりえない」と話す。
 
【ナマズ、キジが騒ぐ】
 「三陸海岸では、大地震の前の大漁が昔から言われています。戦前、寺田寅彦が伊豆の群発地震と漁獲量のグラフが似ていると主張したこともありますが、その後、伊豆半島の水産試験場を調べたが、関連性は分からなかった」

 ただし、「雉が鳴く」「ナマズが騒ぐ」などの前兆には、「本当は分からない。後から、『なるほど、そうだった』という後知恵は心理学的にはアテにはならないものだが、人間が作り上げたどんな感度の高いセンサーより、動物の方が敏感なケースは多い。地電流に対する鰺の側線がそう。

 ナマズも、洞爺湖に乾電池一個を投じた電位差を感じることができます。しかし、センサー機能だけでなく、動物がどんなプロセッサー(判断機能)を駆使しているか、それが地震とどう関連しているかは未解明です」と話している。

【地震に呪文のワケ】
 別表を見ると、地震の際に、いくつかの地方で「マンザイロク」「マンダラッコ」など“呪文”を唱えるとある。
 どうやら「萬歳楽」がオリジナルのようで、婚礼でよく披露される謡曲「高砂」にもある一節。同名の日本酒銘柄を製造販売する石川県白山市の小堀酒造店は、「千秋楽に対してコトの始めを意味する寿ぎ、おめでたい言葉です」という。

 なぜ、それが地震よけとなったのか。
 雷の「桑原、桑原」には、中傷で左遷された菅原道真が怨霊となって、京の都に落雷被害をもたらしたが、道真の荘園にあった桑原の地(不詳)には落ちなかったことから、という伝承がある。

 地震といえばナマズだが、安政の大地震(1854年)直後、江戸を中心に流行した「鯰絵」にも「萬歳楽」の文字が見える。

 島村氏は、「昔、地震の時に“世直し、世直し”と唱える風潮もあった。中国伝来の“地震とは政治が悪いから起きる天誅天罰”という思想が原点でしょうが、幕府にとっては都合が悪い。官製流行語として“萬歳楽”を流行らしたのではないか」と推理する。

 その鯰絵について、災害史が専門の北原糸子・神奈川大教授は、「幕府の認可を待っていたらビジネスチャンスを逃すと考えた当時の出版プロデューサーによるアングラ緊急出版です。著名絵師が匿名で描いたようです。とはいえ、地震後は復興需要で景気がよくなったので、庶民からは地震=ナマズは富をもたらすものと歓迎されていましたから、政権批判というよりは商売」という。

 鹿島大明神がナマズを踏みつける図柄も定番。

 ただし、「鹿島神宮の要石で押さえつけたナマズが、押さえが緩むと地震が起こるという伝説が流布していました。ところが、文献や考古学の成果では、江戸中期までナマズは関東にいなかったようです」(北原氏)。


 ■列島に伝わる地震・津波の伝承
 【北海道】
・地震が来たら、高台へ逃げろ(奥尻町)
・地震雲(飛行機雲のような直線上の雲など)が空に出たら、その何日後かに地震が来る(別海町)

 【青森】
・地震直後、海鳴りがしたら避難する(百石町)
・地震が来たら、山に避難しろ(横浜町)

 【岩手】
・津波てんでんこ=親子といえども、てんでばらばらに逃げろ
・低いところに住家を建てるな
・緩慢な長い大揺れの地震があったら、少なくとも1時間は警戒せよ
・外国地震でも津波は来る
・雉が鳴く/騒ぐと地震が起きる(奥州市)
・井戸水が引ければ津波が来る(普代村)
・地震が来たら便所さ行け(普代村)
・超大漁の翌年には大津波が来る(野田村)
・地震長きは津波と思え(種市町)

 【秋田】
・鰯雲が出ると地震が起きる(鹿角市)
・地震が来たら肥やしの上に乗れ(鹿角市)

 【宮城】
・2度大砲のような音がしたこと、海が光ったこと、津波襲来直前に平時よりも大幅に退潮したこと
・一度逃げたなら1―2時間は待て(仙台市)
・地震の時はすぐ雨戸を開けろ(亘理町)
・異常な引潮、津波の用心(南三陸町)

 【福島】
・地震の時、六つ八つ風に四つ日照り、五七の雨に九はやまい(くもり)(郡山市)

 【新潟】
・地震の後に大雪が来る
・地震の時「マンザイロク、マンザイロク」といって竹藪に逃げる(新潟市)
・火床に摺り鉢をかぶせて竹原へ走れ。また、「マイザイロク、マイザイロク」と唱えること(新発田市)

 【千葉県】
・地震の前には魚が跳ねる
・地震の前には雉などの鳥が鳴く

 【埼玉】
・ナマズが地下を動き回ると地震が起こる
・地震の時は「まんぜえろく」と唱える(毛呂山町)

 【東京】
・大地震の時の持ち出し品は食物ぐらいで最小限度に(墨田区)
・2階建の家は、1階より2階が安全(墨田区)

 【神奈川】
・地震の時「マンダラッコ、マンダラッコ」と唱えるとよい(平塚市)
・鼠が騒ぐと地震が来る(平塚市)
・ナマズが動き出すと地震が起こる(平塚市)
・地震・雷、その他恐ろしいことが発生したときに発せられる言葉「桑原、桑原」(平塚市)
・地震の道がある(綾瀬市)
・やすで虫(ムカデに似た節足動物)がたくさん落ちる時は地震あり

 【山梨】
・ナマズが騒ぐと地震が起きる
・雉が鳴けば地震
・山の生物が里に下りたら火山爆発の前兆(河口湖町)

 【長野】
・烏の鳴き声の悪いときは火事や変わりごとがある(長野市)
・狐が火をくわえて屋根に登る夢を見ると火事になる(長野市)
・地震よけのために鹿島神、香取神をまつる(長野市)
・雉がしきりに鳴けば地震がある(長野市)

 【静岡】
・大地震の後には必ず大きな揺り返しがある(富士宮市)
・地震の後には必ず津波が襲ってくるので絶対に浜に逃げてはいけない(静岡市)
・津波でも沖に出れば安全で、3つ目を越せば津波の心配が小さくなる(東伊豆町)

 【富山】
・地震が起きている最中には「ゆんもどせ。ゆんもどせ(揺り戻せ)」と唱える(小矢部市)
・地震が起きる前には雀・烏などの鳥がいなくなる(小矢部市)

 【愛知県】
・雉が鳴けば地震がある(岡崎市)
・異常に暖かいと地震が来る(岡崎市)
・地震が来たら頭に気をつけろと言って布団を被った(瀬戸市)
・春秋の地震は弱いが、夏冬の地震は強い(旭町)

 【福井】
・地震の前は鳥は木に止まっている(勝山市)

 【三重】
・地震が来たら高台に逃げろ(志摩市)

 【大阪】
・地震の時は竹藪に逃げろ(交野市)

 【徳島】
・大きい地震の後に井戸水が引けば津波が来る
・地震があると天気が変わる/定まる(小松島市)
・津波警報があれば、路地づたいに/川沿いを/橋を渡って逃げてはいけない
・南海地震津波の最高潮位標識を見よ。それより高い津波もあることに注意せよ(海南町)
・沖で地震を感じたら直ちに湾外の深いところへ船を移動せよ。湾内では直ちに下船し緊急避難せよ(海南町)
・大地震の後、車で防潮堤外の埋立地に入るな。門扉が閉じられ、車も命もなくすことがあることを知れ(海南町)
・津波は必ず数回やって来る(海南町)
・スルメが多く獲れた時は地震に気をつけろ(宍倉町)

 【愛媛】
・災害前になったら家の中の鼠が姿を消す(愛南町)

 【高知】
・地震の前に井戸が涸れたり濁ったりした(室戸市)
・地震があったら井戸の水を見ろ。涸れていたら津波が来る(須崎市)

 【熊本】
・雉がしきりに鳴くと地震がする(東臼杵郡)
・蛇は地震の前に木に登って避難する
・鼠は大地震の前になると家の中から居なくなる
・猫は地震発生前に家から戸外に飛び出る
・地震があると2、3日中に雨が降る(野尻町)
・烏が騒ぐと地震が来る(串間市)

 【沖縄】
・明和津波の時、鶏がパタパタと木の上へ飛び上がったので人々は何事かと驚いた(八重山地方)
・大地震の後、たくさんの海鳥が群れて飛んできた(八重山地方)
・地震の直後、波がスーッと急速に外の瀬まで潮が干いた(八重山地方)
・津波の襲来前、風がピタリと止んでシーンと静まりかえり、何か嵐の前の静けさという異常な空気を感じせしめた(八重山地方)

※総務省消防庁のHPから抜粋、一部は表記を替えた(2007.07.02紙面掲載)

投稿日: 2007年07月16日

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