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瀬名秀明「イヴのみる夢」(2)―ゲノム情報を読み取る
キャンプに行き、周囲の草木や虫たちに装置の針を当てる。この装置はわずか数十秒でその生き物のゲノム暗号全配列を読み取ってしまうのだ。魚を釣ってはゲノムを読み、夜のテントではぴしゃりと叩き潰した蚊のゲノムを読む。
データが蓄積されたこの装置は、やがてキャンプ場の生態系のゲノム情報をまるで網の目のように描き出し、そこを訪れた私たちのゲノムとの相性や、気持ちのリフレッシュの度合いまで示してくれる。
こんな世界が十数年後にやってくるかもしれない。2003年、世界の科学者が共同で推進したヒトゲノム計画は当初の目的を達成した。しかし技術革新がさらに進めば、ゲノム配列の読み取りも安価に、そして劇的に短時間でできるようになる。いまアメリカではひとりのゲノムをわずか1000ドルで読もうという研究が始まっており、成功すれば誰でも1000ドルで自分のゲノム情報を入手できる。
さらに今、メタゲノム計画という壮大な構想もあって、腸内細菌や乳酸菌など私たちの身近な生物のゲノムをとにかくすべて読み取って、人と環境がどのように相互作用しているかを調べようというのだ。今後はゲノム情報爆発の時代が確実にやってくる。
科学者はその情報爆発と格闘しながら、アレルギー根絶や資源開発をめざすはずだ。誰かが遺伝子をひとつ治療し、品種改良の稲が1株育つたびに、広大な地球ゲノムネットワークが書き換えられてゆく……私たちはすでに、そんなサイバーゲノム社会の一員なのだ。
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せな・ひであき
小説家。1968年静岡県生まれ。96年東北大学大学院薬学研究科(博士課程)修了。95年、大学院在籍中に執筆した「パラサイト・イヴ」が日本ホラー小説大賞受賞、155万部のベストセラーに。主な著書は「デカルトの密室」「ハル」など。(2007.09.14紙面掲載)
■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(1)「ミトコンドリア占い」

