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瀬名秀明「イヴのみる夢」(13)-人類のⅠ型糖尿病も同じ!?

イヴのみる夢 北アメリカに生息する体長5センチほどの小さな森ガエル(アメリカアカガエル)にはびっくりするような特技がある。冬が近づいて寒くなると、このカエルは手足を縮めて丸くなり、かちかちになって心臓も止まってしまう。そして春になると溶けて再び動き出す。

 なぜこんなことが可能なのか? 砂糖がたっぷり含まれたアイスシャーベットを思い出してほしい。ただの水ならすぐに凍ってしまう温度でも、糖分が多い溶液はなかなか凍らない。森ガエルは氷点下に近づくと肝臓でたくさんの糖分をつくり出し、同時に体内から水分を放出して、自分を「凍らない砂糖菓子」にしてしまう。そのため越冬できるのだ。

 氷の結晶の先端はナイフのように鋭いので、食肉でも冷凍すると氷の先端が肉を切り裂いて組織をこわしてしまう。だから冷凍食品は味が落ちるし、冷凍された人間標本が生き返ることはない。しかし砂糖菓子になれば氷が組織を壊すこともない。森ガエルの見事な適応進化である。

 マウント・サイナイ医学大学院のシャロン・モアレム博士らは、なんとⅠ型糖尿病が人類にとって氷河期の生き残り戦略の名残だという大胆な仮説を発表している。氷河期のころ、まさに森ガエルと同じ理屈で、体内の血糖値の高い人が寒さをしのいで多く生き延びたのではないか、というのだ。その名残がいわば「迷惑な進化」の適応結果として現代人に受け継がれてしまったのだという。実際、Ⅰ型糖尿病の患者は北欧に多い。

 確かに、寒くなると誰でも尿意を催す。このメカニズムはわかっていないのだが、モアレム博士にいわせればこれも体内の血糖値を上げて液体の氷点を低くする戦略だ。

 森ガエルからⅠ型糖尿病の治療法が見つかるかもしれない、とモアレム博士はこの仮説をおもしろおかしく語っている。だがそれよりも遠い将来、宇宙船に乗ってどこかの惑星に行くとき、この砂糖菓子法は使えそうだ。あるいは簡易タイムマシンとして利用し、未来で目覚めてみるのもいい。
(2007.12.07紙面掲載)
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せな・ひであき
小説家。1968年静岡県生まれ。96年東北大学大学院薬学研究科(博士課程)修了。95年、大学院在籍中に執筆した「パラサイト・イヴ」が日本ホラー小説大賞受賞、155万部のベストセラーに。主な著書は「デカルトの密室」 「ハル」など。
(2007.11.30紙面掲載)

■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」

投稿日: 2007年12月19日

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