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瀬名秀明「イヴのみる夢」(19)-日本語は感染症予防に効果的!?

瀬名秀明 研究者は飲み屋でおかしな議論に花を咲かせるものだ。元国立感染症研究所感染症情報センターの初代所長・井上栄教授と横浜市立大学・矢吹晋教授は、あるとき新橋でビールジョッキを傾けながらこんな話をした。

 「インフルエンザのような空気感染症のウイルスは、口から飛沫が出て他人に感染するだろう。中国に旅行したアメリカ人は感染しやすいのに、日本人が 罹(かか)りにくいのはなぜだ? 中国語の発音に原因があるんじゃないか」

 中国語の専門家である矢吹教授はハンカチを取り出して「有気音」を実演した。

 「ほら、pやtやkの破裂音の後に母音が来ると、強く息が出てハンカチがめくれ上がるだろう。ウイルスもたくさん飛んでいるはずだ。中国語や英語には有気音があるが、日本語では息の出ない無息音になる。日本人観光客が来たとき中国人は日本語で話して、アメリカ人が来たら英語でしゃべるんじゃないのかな。だから日本人は感染しにくいんだ」

 とっさの思いつき、酒席での冗談のはずだったが、井上教授は我が意を得たと頷(うなず)き、この考えを有名な医学雑誌「ランセット」に投稿した。すると採用されてしまったのだ!

 井上教授の投稿はたちまち世界的な話題となった。人を笑わせ、楽しませ、考えさせる研究に贈られるあの「イグ・ノーベル賞」の主催者マーク・エイブラムス氏も大々的にこの学説を紹介した。「世界中が日本語を使えば感染症問題は解決する!」

 さて井上教授の思いつきは本当に正しいのか? さすがに咳で飛ぶツバのほうが深刻だろうし、マスクで防ぐのがいちばんだ。しかし将来、ウイルスを飛ばさない「機能的な言語」が開発されるかもと考えるのは気晴らしになる。冬場に感染症が心配でも、なかなか会社や学校は休めないもの。そんなときは皆でこの新しい言語を使うのだ。

 では日本語でもいちばんウイルスを飛ばさないのはどこの地方の言葉なのだろう? いっそコンテストを開催して、感染症予防率ナンバーワンの言葉を決めてみるのもいい。
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せな・ひであき
小説家。1968年静岡県生まれ。96年東北大学大学院薬学研究科(博士課程)修了。95年、大学院在籍中に執筆した「パラサイト・イヴ」が日本ホラー小説大賞受賞、155万部のベストセラーに。主な著書は「デカルトの密室」 「ハル」など。

■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(18)心の痛みに効く処方
(17)“予知”能力もトレーニングできる
(16)「ゆらぎ」を活用する生命
(15)標識付きウイルスで伝播追跡
(14)父親から受け継ぐ「寿命の回数券」
(13)人類のⅠ型糖尿病も同じ!?
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」

投稿日: 2008年02月06日

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