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瀬名秀明「イヴのみる夢」(23)-遺伝子操作で神経回路オン・オフ
アメリカ・ボストンといえば大リーグ・レッドソックスの松坂大輔選手だが、彼の名前は今後医学の分野でも大いに活躍するかもしれない。同じくボストンのマサチューセッツ工科大学に所属するノーベル賞医学生理学賞受賞者の利根川進教授が、松坂投手にちなんで「DICE―K(ダイスケ)」と名づけた画期的な遺伝子操作技術を発表したのだ。
アルツハイマー病でなくても私たちは高齢になると新しい環境での記憶力が衰えてくる。定年後に新しい町に引っ越すと、駅からの方角がなかなか憶えられず、迷子になってしまいがちだ。利根川教授らは脳の中でどのように記憶がつくられるのかを調べるため、遺伝子操作で簡単に神経シナプスの伝達をオン・オフできる方法を開発した。
脳の海馬という部分には、記憶形成に関係するふたつの神経経路がある。ひとつは海馬の全体をぐるりと回る長い経路、もうひとつは近道をする短い経路だ。利根川教授らは「DICE―K」というこの方法でマウスの遺伝子を操作して、長い経路の神経シナプスだけを遮断してみた。エサに特殊な物質を加えると、遮断は取り払われて正常に戻る。
利根川教授らがこの方法でマウスを調べたところ、何度も時間をかけて迷路の道筋を憶えるような学習は海馬の短い経路だけでもできたが、新しい環境で素早く1回で道を憶えるような記憶学習には長い経路が不可欠だとわかった。
この長い経路は、加齢と共に衰える私たちの空間記憶能力と関係があるのだろうか? 長い経路の働きを取り戻せば、日々の生活でも不自由しなくなるかもしれない。今後の研究に期待しよう。「DICE―K」なら遺伝子をうまくデザインすれば遮断位置も変更できるから、さまざまな研究への展開が可能だ。
「DICE―K」をきっかけに生まれた遺伝子治療法や新薬が、松坂投手さながらの豪腕で私たちの脳を元気に蘇らせてくれる日はくるだろうか? 今後は大リーグの試合に送る声援が、未来の医療にも届くことを願おう。
■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(22)細胞をプリンターで印刷
(21)家禽の遺伝子改変で抑制も
(20)脳を活性化するサービス
(19)日本語は感染症予防に効果的!?
(18)心の痛みに効く処方
(17)“予知”能力もトレーニングできる
(16)「ゆらぎ」を活用する生命
(15)標識付きウイルスで伝播追跡
(14)父親から受け継ぐ「寿命の回数券」
(13)人類のⅠ型糖尿病も同じ!?
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」




