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イージス艦の真実―世界最大・最新のハイテク兵器

■週刊軍事情報
あたご 海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」が漁船と衝突した事故は、大きな衝撃を与えた。建造費約1500億円の「あたご」は海上自衛隊でも最新鋭の護衛艦で、イージス艦としても世界最大だ。まさに同じころ、米海軍のイージス艦は故障した偵察衛星をミサイルで見事破壊した。宇宙空間のミサイルや偵察衛星を一発で撃墜する一方、目の前の漁船とは、なんともちぐはぐな感じ。いったいイージス護衛艦とはどんなシロモノなのか。超ハイテク兵器とそれを操る海上自衛隊員の実態とは―。

■まるで天守閣
 イージス艦とは「イージスシステム」を搭載した戦闘艦艇のこと。1983年に就役した米巡洋艦「タイコンデロガ」に初めて搭載された。その次に登場したのがアーレイ・バーク級駆逐艦、そして日本では海自のこんごう級(4隻)、あたご級(1隻)が就役しているが、イージスシステムは時代とともにバージョンアップしており、あたごが搭載しているシステムは最新型の「ベースライン7・1J」である。

タイコンデロ 海自の艦には司令部の機能も盛り込んでいるため、米海軍の艦より艦橋が2層多く、高い。まるで城の天守閣のようだ。旧日本海軍にも「愛宕」という重巡洋艦があったが、この艦もイージス護衛艦と同じように巨大な艦橋が特長だった。

 艦船は重心が高くなると傾いた状態から元の水平な状態に戻る力「復元力」が減少してしまう。こういう状態は「トップ・ヘビー」と呼ばれるが、高級幹部としてイージス護衛艦での勤務経験がある海自OBは「トップ・ヘビーに見えるのでよく揺れるかなと思ったが、実際にはそれほどでもなかった」と話す。

■200の目標を探知
 イージスシステムは万能兵器のように思われがちだが、実際はそうでもない。もともと空母を中心とする艦隊の防空を主目的に開発されたエリア防空システムなので、対空機能が中心。そのため、非常に能力の高いレーダーが搭載されている。

 あたごのレーダーは「SPY―1D(V)」で、こんごう型の「SPY―1D」を改良したものだ。弱点とされていた真上方向や低空を高速で飛ぶ小型目標の捜索追尾能力が改善されたといわれる。

SM―3を発射 両タイプとも「フェイズド・アレイ」と呼ばれる種類のレーダーだが、これは小型の送信・受信素子を固定された平面上にたくさん配置して、電波をとばす方向や強さなどをソフトウエアで制御する仕組み。

 360度カバーできるよう1隻に4面のアンテナが取り付けられているが、1面あたり4350個の素子があり、1個はビーム幅2度のペンシル・ビームを照射する。それを上下左右90度の範囲で振り回しているのだ。

 そのため、「探知可能目標は200程度、そのうち100以上を追尾可能で、一度に十数個に対処可能。しかも高度がある目標なら500キロ先でも探知できる」(海自幹部)というケタ外れの能力がある。

■盲点は鳥?!
 しかしイージスシステムの本当のキモは、「レーダーなどで探知した情報を処理するソフトウエアにあるといっていい」(専門誌「軍事研究」編集部の大久保義信氏)。

 まず、探知した目標を自動的に見分ける機能。前出の海自OBは「目標を撃墜すると小さな破片が飛び散るが、すべてがスクリーンに映る。コンピューターはそれらを瞬時に破片だと判断して表示を消してくれる。さらに対処すべき優先順位も判定してくれるので、艦長らがディスプレーとにらめっこして判断に時間を取られるということが少なくなる。この艦の能力を初めて目の当たりにしたときは世界が変わった気がした」という。

 面白いのは、鳥も判別できる点。米軍は鳥の飛び方も熱心に解析してソフトウエアに組み込んでいるらしい。「逆に言えば、鳥のように飛ぶ兵器があれば攻撃ができるかもしれない、なんてことも冗談で言われている」(海自関係者)とか。

■偵察衛星も打ち抜く
模擬弾道ミサイルの迎撃試験に成功 これほど高度なシステムなので、ソフトウエアを改修することで弾道ミサイルの探知・迎撃能力も持つことができた。こんごう級4隻には弾道ミサイル迎撃能力が付加され、昨年12月、ハワイ沖で迎撃ミサイルSM―3による模擬弾道ミサイルの迎撃試験に成功した。

 さらに米海軍のイージス巡洋艦「レイク・エリー」は今月21日、ハワイ近海から改造SM―3を発射し、故障して地上に落下する可能性が高まっていた偵察衛星を高度約290キロの宇宙空間で破壊した。

 ところが、そんなイージス艦も対潜水艦、対水上艦の能力はごく普通。むしろ「海面の探知に使う航海用レーダーについては、よく映らないブラインド域の問題が指摘されてきた。こんごう級やあたごは他の護衛艦に比べてブラインド域が広いといわれる」と大久保氏は指摘する。とくに艦の周辺数百メートルの至近距離が死角になっており、これが今回の漁船事故の要因になっている可能性もある。

■艦長心得
 前述の”鳥型兵器”の冗談とも通じるが、だからこそ最終的には人間の目で確認することが非常に重要になるわけだ。とくに、海自の基地がある横須賀や呉は非常に多くの船が行き交う浦賀水道や瀬戸内海を通らなければならないので、操艦には非常に神経を使うという。

 護衛艦数隻を束ねる護衛隊司令を務めたこともある海自関係者は「太平洋から浦賀水道に入るとき、艦長は艦の中心部の戦闘指揮所(CIC)ではなく、見晴らしのいい艦橋にいる。仮眠していても起きてくる」と語る。

 元海上自衛官は「ベテラン艦長になると、東京湾で一面船舶だらけの場所にいても、注意が必要な船舶を一目で絞り込める。そして『あの漁船をやりすごして、向こうの貨物船の後ろを回っていこう』というように的確な指示が出せる」と明かす。

■潮気と娑婆っ気
 海自隊員の間では船乗りとしてのセンスを「潮気(しおっけ)」と呼ぶ。反対に陸上生活の習慣が長く抜けきらないことを「娑婆っ気(しゃばっけ)が多い」と呼んで現場では軽蔑される。

 艦長にも現場を歩くタイプと、学生時代の成績がよくて陸上のデスクワークの方が長くなるタイプがいる。後者のなかには「娑婆っ気」がうまく抜けず中央の方ばかりに目が向く「トップヘビー」な人もいるのだが、そうなると現場の部下とのコミュニケーションがうまくいかなくなる。これは一般企業でも同じだろう。

 とくにイージス艦では、イージスシステムを取り扱う下士官の曹クラスに高い技能が求められるため、いわば職人のようなタイプがそろっている。「そのため、技量も人格も劣る幹部は相手にもされない」(海自高級幹部)。

 海自の曹クラスの職人技は米海軍も一目置いている。「米海軍のイージス艦約70隻も含めた各種の試験や演習などで、海自のイージス艦はいずれも常にトップクラスの成績を残す」と艦長経験者は口をそろえる。

 かつての大日本帝国陸海軍も職人技が支えていた。これは昔の日本が貧乏で産業技術も欧米に劣っていたことと無関係ではないが、兵器の不具合は使い手が補正してなんとか使っていた。モノにヒトが合わせようとしていたのだ。

 海自隊員が自虐的にいう言葉に「伝統墨守、唯我独尊」というのがある。旧海軍時代からの伝統やしきたり、自説にこだわり、柔軟性がなく、うぬぼれが強い―という意味なのだが、悪い面での「伝統墨守」にはならないでもらいたいものだ。

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投稿日: 2008年03月04日

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