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瀬名秀明「イヴのみる夢」(24)-脳に埋めたチップが支援
2028年、Hさん一家はホームステイの高校生を受け入れた。リサというその子は意思決定を支援する特殊なチップを脳に埋め込んだ最初の世代だ。
リサはHさんの娘といっしょに高校へ通い、週末は神社でアルバイトをする。何かわからないことが起こったとき、リサはHさんに三段論法で説明してくださいという。順を追って説明するとリサは目を閉じて考える。リサはいま自分が感じている「違和感」の強さと種類をチップに判定してもらうのだ。故郷の習慣とは違っても、それが論理的であれば違和感を消して受け入れる。人にからかわれたときは、たとえ論理的には正しくても、リサはきっぱりと怒ってみせる。
歳を取ると判断力が鈍ってくるのはなぜだろう? ちょっと考えれば非常識とわかる話なのに、そうと気づかず振り込め詐欺にあってしまったりする。今後の脳科学は、私たちが感じる「違和感」のメカニズムも解明するかもしれない。
慶應義塾大学の辻井岳雄氏らは、さまざまな三段論法の文章を見たときの脳の賦活を調べている。私たちは論法の正しさと文章の意味内容の正しさの両方が合致しているとき、内容を理解しやすいし判断もしやすい。しかしどちらかだけが間違っているとき、言葉にしにくい奇妙な違和感を覚える。その違和感の正体かどうかはまだ不明だが、脳の前頭前野で賦活の状態が変化することがわかった。
今後はもしかしたら脳の違和感の状態をマイクロチップでとらえて、この論理は危険だとか、いま判断力が鈍っているがこれは大丈夫だぞといったように、意思決定をサポートする機械ができるかもしれない。私たちは異なる文化風習になじみにくいし、見知らぬ土地では詐欺にも遭いやすい。脳科学がそのリスクを回避してくれるのなら、私たちはいまよりもっと心を開いて異文化と接することができる。
帰国前日のパーティーで、リサはうれし涙をHさん一家に見せた。チップが埋め込まれた子もやはり人間なのだとHさんは思った。
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せな・ひであき
小説家。1968年静岡県生まれ。96年東北大学大学院薬学研究科(博士課程)修了。95年、大学院在籍中に執筆した「パラサイト・イヴ」が日本ホラー小説大賞受賞、155万部のベストセラーに。主な著書は「デカルトの密室」 「ハル」など。
■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(23)遺伝子操作で神経回路オン・オフ
(22)細胞をプリンターで印刷
(21)家禽の遺伝子改変で抑制も
(20)脳を活性化するサービス
(19)日本語は感染症予防に効果的!?
(18)心の痛みに効く処方
(17)“予知”能力もトレーニングできる
(16)「ゆらぎ」を活用する生命
(15)標識付きウイルスで伝播追跡
(14)父親から受け継ぐ「寿命の回数券」
(13)人類のⅠ型糖尿病も同じ!?
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」

