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瀬名秀明「イヴのみる夢」(25)-肥満解消に魔法の弾丸

イヴのみる夢 体内の悪いところだけをねらい打ちして病原を取り除いてゆく魔法の弾丸──そんな夢の新薬をめざして多くの科学者が日夜研究に取り組んでいる。しかしなかなか実現しないのは、人間の身体がすべてバランスで成り立っているからだ。あるものを減らせばどこかが増えて、それが別の悪影響を及ぼす、といったことが少なくない。いかにバランスよく狙い打ちするか? 弾丸を撃つガンマンの腕前や知能も大切なのだ。

 テキサス大学のミカイル・コローニン博士らが世界をあっといわせた弾丸は、肥満を解消してくれる。肥満になるメカニズムは医学の進歩によってかなりわかってきているが、いまだに簡単で確実な治療方法はない。ダイエットやエクササイズでも無理な場合、腸からの脂肪の吸収を減らす薬や、脳の状態を改善する薬が使われるが、いずれも副作用がある。コローニン博士は、血液中に取り込まれた油が脂肪細胞というところに貯蔵されることに目をつけた。この脂肪細胞が増えすぎると、腹もたるんでメタボになる。

 この脂肪細胞には血管から栄養分が供給されている。この血管に存在するプロヒビチンという物質だけにくっつく薬をつくり、この薬にアポトーシスという作用を促す物質を添えた。これによって脂肪細胞につながる血管の細胞は細かくちぎれて死んでしまう。つまり脂肪細胞に血液の栄養が行き渡らなくなるので肥満の抑制になる。

 このような作用が起きると脳の視床下部にも信号が伝わり、脳は体内の脂肪を減らそうと判断して、食べ物の摂取を控え、エネルギー消費を増やそうとし始める。まさに一石二鳥の結果で、この新薬によってネズミの体重が減ることもコローニン博士らは確認した。

 脂肪細胞は体内のエネルギーバランスを調節する働きもあるので、この魔法の弾丸は効き過ぎてもいけない。ほどよい狙い打ちで脂肪を退治することが必要だ。メタボ腹を一発で仕留めるのはなかなか難しそうだが、魔法がいつか現実になることを期待しよう。

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せな・ひであき
小説家。1968年静岡県生まれ。96年東北大学大学院薬学研究科(博士課程)修了。95年、大学院在籍中に執筆した「パラサイト・イヴ」が日本ホラー小説大賞受賞、155万部のベストセラーに。主な著書は「デカルトの密室」 「ハル」など。


■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(24)脳に埋めたチップが支援
(23)遺伝子操作で神経回路オン・オフ
(22)細胞をプリンターで印刷
(21)家禽の遺伝子改変で抑制も
(20)脳を活性化するサービス
(19)日本語は感染症予防に効果的!?
(18)心の痛みに効く処方
(17)“予知”能力もトレーニングできる
(16)「ゆらぎ」を活用する生命
(15)標識付きウイルスで伝播追跡
(14)父親から受け継ぐ「寿命の回数券」
(13)人類のⅠ型糖尿病も同じ!?
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」

投稿日: 2008年03月19日

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