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「サラリーマン小説再読」『痴人の愛』
性的に解放された大正末期の文豪の代表作。タイトルからは意外だが、実は主人公がサラリーマンの小説だ。
河合譲治は28歳、電気会社技師で、月給150円は悪くない。独身で下宿住まい、実家も富農で小遣いは自由に使える。が、道楽をするでなし、真面目で凡庸で職場では「君子(くんし)」の評判も。結婚はまだする気がない。
譲治は風変わりな美意識の持ち主で、「一人の少女を友達にして、朝夕彼女の発育のさまを眺めながら」住むのが理想。浅草のカフェー給仕で15歳の奈緒美(ナオミ)と知り合い、混血児風のバタ臭い容姿に惚れこんで念願の生活に入る。同居して、ナオミを風呂に入れて体を洗ったり、馬になって背中にナオミを乗せて遊んだりする日々。
男女の仲になったのは1年後。この間、譲治は毎日きちんと会社に通い、仕事をしていた。やがてナオミが複数の男と関係を持っていることを知り、家から追い出す。だが、彼女が再び現れるともとの木阿弥になり、男関係を承知でナオミの奴隷になる。そして、ナオミ23歳、譲治36歳、2人は夫婦になっていた。
平凡なサラリーマンの別の顔。あなたの周囲にも…。
(文芸コラムニスト・長野祐二)




