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瀬名秀明「イヴのみる夢」(28)-ご飯のお供にワクチンふりかけ

イヴのみる夢 201X年、Jさん一家の食卓には新商品「Mふりかけ」が欠かせない。乾燥野菜や豆などを細かく砕いて混ぜ合わせたこのふりかけには、花粉症や食物アレルギーを抑える効果があるのだ。昨年からの大ヒット商品で、おかげでJさんは辛いくしゃみから解放され、苦手な大豆も食べられるようになった。

 「あなた、来月海外出張でしょ。あっちで感染しないように、このふりかけを持っていって」と妻から差し出されたのは「MふりかけCT」。なんとコレラ毒のワクチンだ。これなら現地の食べ物にふりかけるだけで予防になる。Jさんは目を丸くして受け取った。

 今晩のお食事にワクチンをどうぞ──そんな研究がいま実際に進んでいる。注射型のワクチンは冷蔵に莫大な金額がかかり、保存も大変だ。そこで遺伝子組み替えで食糧の中にワクチンとなる抗原タンパク質を組み込んでしまおうという発想である。

 東大医科学研究所の清野宏教授らは、腸管の粘膜組織にあるM細胞に着目した。体内に抗原が入ると、このM細胞は積極的に取り込んで各種の免疫細胞に受け渡し、免疫反応を誘発させる働きがある。だからM細胞に直接届くようなワクチンをつくれば、注射をしなくても食べるだけで感染症を抑えられる。

 清野教授らはお米にワクチンの働きを持たせ、マウスでその効果をすでに確かめている。このコメ型ワクチンは室温で1年半も保存できるので、発展途上国での備蓄にも有効だ。そのまま鳥に食べさせて、インフルエンザウイルスの感染抑制にも使えるかもしれない。

 粘膜の免疫システムにはもうひとつ、免疫反応をあえて起こさせないという働きも備わっている。この働きが異常を起こすのが花粉症やアレルギー反応だ。同じようにM細胞へ届く遺伝子組み替えのお米を使えば、アレルギーも治療できるかもしれない。清野教授らはすでにこの研究も進めている。

 いまはまず安全性が課題だが、いずれはご飯を炊いて食べるだけでアレルギーを治せるようになるのかも?

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せな・ひであき
小説家。1968年静岡県生まれ。96年東北大学大学院薬学研究科(博士課程)修了。95年、大学院在籍中に執筆した「パラサイト・イヴ」が日本ホラー小説大賞受賞、155万部のベストセラーに。主な著書は「デカルトの密室」 「ハル」など。


■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(27)歩くだけで5ワット! 人体発電機
(26)ミトコンドリア・ダイエット
(25)肥満解消に魔法の弾丸
(24)脳に埋めたチップが支援
(23)遺伝子操作で神経回路オン・オフ
(22)細胞をプリンターで印刷
(21)家禽の遺伝子改変で抑制も
(20)脳を活性化するサービス
(19)日本語は感染症予防に効果的!?
(18)心の痛みに効く処方
(17)“予知”能力もトレーニングできる
(16)「ゆらぎ」を活用する生命
(15)標識付きウイルスで伝播追跡
(14)父親から受け継ぐ「寿命の回数券」
(13)人類のⅠ型糖尿病も同じ!?
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」

投稿日: 2008年04月16日

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