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橋口亮輔さんはうつ病を「マッチョ化」で克服
2002年の「ハッシュ!」以来の新作映画「ぐるりのこと。」が6月に公開される映画監督、橋口亮輔さん(45)。今回は、法廷画家の主人公とうつ病に苦しむその妻―1組の夫婦の10年を描いた。監督自身もうつに悩んだという…。
これまでの橋口作品では「ゲイ」が大きなテーマだったが、今回は初めてそれから外れた作品である。
「ハッシュ!が大きな評価を得て、賞も色々といただきました。しかし、その頃はうつ真っ只中で、何も感じなかった。へぇ~そう、みたいな感じで。関係者からは何て張り合いのない奴だと思われたと思いますよ(笑)。ハッシュ!の公開まで1年半と長かった。その間、宣伝、小説、海外キャンペーンなどが延々と続きました。その責任とストレスは半端じゃなかった。今思い出してもゾッとします」
その映画公開後、徐々にうつを自覚していった、という。
「とにかく遊ぼう、と思って買い物をしたりしたんですよ。2、3カ月躁状態になったんですが、いくらお金を使っても楽しくない。あれ、変だな?、と思ってるうちにうつに飲み込まれてました。毎日思うことは、
“人生かけて映画を作って何になる…”“この先人生に何がある。何にもない…”と自問自答。何か深みにはまっていくような気分で、死ぬことばかり考えていました」。医者には中軽度のうつと診断されたが、うつの薬は服用しなかった。
「周りの作家にも、うつの人がいて、薬を飲んでも1日中ボーッとしてしまう、と聞いていたんです。ならば、何とか自分で、自分の力で治してやろう、という気になりました」
そこで毎日ジムに通い、ひたすら自分の肉体と格闘する日々が始った。
「1日5食、トレーニングして寝るという生活を半年送り、10キロ体重を増やしたんです。頭をカラッポにして、肉体と会話することで次第に心の弾力が甦っていきました」
今回の「ぐるりのこと。」では、ヒロインの翔子(木村多江)がうつに悩みながら、夫・カナオ(リリー・フランキー)に気持ちをぶつけ合うシーンなど印象的な場面も多い。
「翔子は何かをやりたいけれど、できないともがくわけですが、うつは彼女のようなきまじめで繊細な人がなりやすいんです。僕もうつの時は精いっぱいで、苦しかった。その心情は分かります…」
映画は、夫婦のあり方だけでなく、主人公が法廷で出会う事件、周りで起きていくことなどが重なり合い、深みを与える。結末は、決してありがちな夫婦の幸せの形を描いていない。その点に橋口監督の精神体験が色濃く反映されているのだろう。
「うつの体験があったからこそ、客観的に物事が書けるようになり、自分の文章が変わったことが分かりました。うつになってよかった、と感じるほどです」
ただ、うつをすっかり克服したわけではない。
「一度受けた傷はやはり残る。これは一生の付き合いだな、と思っています」
映画の準備・撮影でトレーニングをやめ、体重が落ちたが、「もう一度…、50歳前にマッチョになりたい。ガンガンもてたいですよ」と笑ってみせた。
はしぐち・りょうすけ 1962年、長崎市生まれ。高校時代から8ミリで映画を撮り始め、大阪芸大映像計画学科に進む。
89年、「夕べの秘密」がぴあフィルムフェスティバルでグランプリに。92年、「二十才の微熱」、95年、「渚のシンドバッド」、2002年の「ハッシュ!」はカンヌ映画祭に出品。内外で高い評価を得る。



