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トルーマン・カポーティ著、村上春樹訳『ティファニーで朝食を』(新潮社・1260円)

ティファニーで朝食を トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』の村上春樹氏による新訳が出た。この作品は、オドリー・ヘップバーン主演の映画で広く知られているが、映画とはだいぶ違う。また村上訳も、龍口直太郎氏による旧訳と相当に開きがある。

 この小説(旧訳)も映画もだいぶ前に見た記憶があるのだが、ほとんど記憶に残っていない。いい加減に見ていたのだろう。今回、あらためて映画を見、村上訳を読んで、ヒロインのホリーを映画にするならヘップバーンでなくマリリン・モンローのような女優だな、と思った。

 訳者は巻末で「カポーティーはヘップバーンが映画に主演すると聞いて、少なからず不快感を表したと伝えられている」と書き「(ホリーの)型破りの奔放さや、性的開放性、潔いいかがわしさみたいなところ」が、この女優には本来備わっていないと思ったのだろう、と推察している。

ティファニーで朝食を ネットで見たカポーティ・ファンの投書では、著者はモンローを想定していたらしい、ともある。ヒロインだけでなく、語り手である「僕」の設定も違うし、だいたい小説では、映画のようにホリーと「僕」が結ばれることはない。もっとも、映画は小説とは別の、よくできたロマンチック・コメディーであり、批判しているわけではない。

 旧訳と新訳の違いは、冒頭の数行を見ただけでも、はっきりとしている。

 (龍口訳)「私はいつでも自分の住んだことのある場所――つまり、そういう家とか、その家の近所とかに心ひかれるのである。たとえば、東七十丁目にある褐色砂岩で作った建物であるが、そこに私はこんどの戦争の初めの頃、ニューヨークにおける最初の私の部屋を持った」
 (村上訳)「以前暮らしていた場所のことを、何かにつけふと思い出す。どんな家に住んでいたか、近所にどんなものがあったか、そんなことを。たとえばニューヨークに出てきて最初に僕が住んだのは、イーストサイド七十二丁目あたりにあるおなじみのブラウンストーンの建物だった。戦争が始まってまだ間もない頃だ」

 村上氏の翻訳本は以前、『グレート・ギャツビー』と『ロング・グッドバイ』を読んだが、今回が一番、読みやすかった。翻訳臭がなく、日本語として十分にこなれている。

 第2次大戦下のニューヨークが舞台。多くの男たちを魅了するホリーを、同じアパートに住み自らもホリーに惹かれている作家の卵「僕」の眼から描く。話は、波乱に富む起伏をたどり、麻薬密輸ほう助の疑いをかけられた彼女がブラジルに逃亡、さらにアフリカに足跡を残して終わる。

 この小説の見どころは、ストーリーより“イノセント(無垢)な娼婦”とでも呼びたいホリーの魅力だろう。訳者のいう「潔いいかがわしさ」、「戦略的自然児」(矛盾する表現だが、と断っている)の魅力である。

 また村上氏は著者の「研ぎすまされた無駄のない文章」をあげている。英文の読めない私には分からないが、訳文から推察する限り、そうだろうと思う。
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〔略歴〕1924年ニューオーリンズ生まれ。19歳のとき、短編『ミリアム』でO・ヘンリー賞を受け、23歳で発表した初の長編『遠い声 遠い部屋』で、早熟の天才作家として注目された。66年の『冷血』では、ノンフィクション・ノベルという新分野を開いた。晩年はアルコールと薬物中毒に。84年心臓麻痺で死去。

「ティファニーで朝食を」

投稿日: 2008年04月20日

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