この記事を読む方におすすめの記事
今!気になるレビュー
松本泰生著『東京の階段』(日本文芸社・1680円)
40年近く前のこと。荻窪駅から東京駅へ向かう中央線の電車に故・井伏鱒二氏と乗っていた。産経新聞に連載エッセーをお願いしていたことがあるから、その用事だったのだろう。
電車が四ツ谷駅に差しかかったとき、ふと思いついて井伏さんに声をかけた。
「先生、四ツ谷駅で国電に乗るには階段を下ります。地下鉄に乗るには逆に階段を上ります。これを何と呼ぶか、ご存じですか」
「いや」と首を振る氏に続けて言った。
「四谷カイダン(怪談)です」
一瞬きょとんとされた氏は「それ、君が考えたの」と言われた。
「ハイ」
「いま考えたの」
「ハイ」
後日、この話を自慢して喋っていたら、友人が「その話、前に聞いた気がするな」と言った。なるほど、昔聞いたが、記憶の下に眠っていた地口、駄洒落が口に出たのかもしれない。
東京には山手線の内側だけで650余の階段があるという。うち126階段を、写真とともに紹介したこの本には、文京区根津の狭い「おばけ階段」が出てくるが、いまは拡幅されて昔の面影はないという。四谷では蛇行階段などが出ているが、新宿区本塩町の傾斜44度という急階段の方がよほど怖そうである。
「疲労感・景観・スリル・立地」の4点から5段階の「☆」で採点。すべて5つ星は、文京区湯島の実盛坂と港区の愛宕男坂である。著者は早大理工学部講師。 (金田浩一呂)

