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日本人ジャーナリストが実態、傷跡をリポート チベット マチュ潜入記

 中国チベット自治区で先月起きた暴動とその後の状況は、中国政府の厳しい情報統制もあり、断片的にしか伝わらない。そんななか、今回の暴動でもっとも被害が大きかったとされる甘粛省甘南チベット族自治州マチュ(瑪曲)に、暴動後初めて日本人ジャーナリストが潜入。知られざるチベット自治州の実態と暴動の傷跡の撮影に成功した。中国当局の追及を避けるため、匿名でのリポートをお届けする。

■暴動の村
 4月6日未明、私は甘南チベット族自治州内にあるマチュという村に入った。この村は今回のチベット暴動の中では被害がもっともひどかった場所と言われている。

 今回の暴動では、チベット自治区の区都ラサの映像が繰り返し流れたが、暴動直後からラサは当局に完全に封鎖され、外国人が立ち入ることはできなくなった。取材で出会ったチベット人たちも「ラサではもう暴動が起きることはない」と語っていた。

 その代わり、次の暴動の“拠点”として彼らが指摘するのが、このマチュだ。その理由は、他の地域に比べてチベット人の人口比率が極端に高く、チベットの伝統や慣習が色濃く残っているためだ。

 「もっともひどかった」という証言通り、焼き討ちにあった漢民族の宿泊所や商店は無残な姿のままだった。ガラスはすべて割られ、店内は焼け落ち、商品はなくなっていた。まるでゴーストタウンのようだ。

 村の入り口にはヘルメットをかぶった大勢の警察官や、防弾チョッキを着込んだ武装部隊が立ち、村の中を頻繁にパトロールしていた。村の食堂も、客は警察官ばかりで一般人の姿は極端に少なかった。

 商店街は、どの店もシャッターが下ろされていた。焼き討ちにあった店は1カ所に集中せず点々と広がっていた。被害にあった商店はすべて漢民族オーナーの店であり、チベット人の商店は無傷のまま残っていた。

 村の宿泊所にはテレビがあり、暴動の映像を流していた。赤い袈裟を着たチベット人僧侶たちが、店を焼いたり、車をひっくり返す映像が何度も流されていたが、中国側の部隊が発砲したりチベット人を拘束する映像は流れていなかった。

 私はマチュから200キロほど離れた同仁という村にも1泊したが、市場やバス停の横で警官たちが射撃の訓練を頻繁に行っていた。つねに銃声が響き渡り、朝方も銃声で目が覚めたほどだ。暴動再発を押さえるための威嚇であろうことは容易に想像できた。

 暴動後も市民は毎日お寺に参拝し、五体投地という体を地面に横たえるチベット式礼拝を繰り返していた。どの地域でもチベット人は仏教に敬虔(けいけん)で、宗教が生活とともにある。その一方で、近隣の都市部には漢民族がオーナーの高層ビルや高級デパートが建ち並び、漢民族の客が行き来している。この格差こそがチベット問題の元凶なのだと改めて気づかされた。

■苦難の山越え
 私は4月5日午前6時に青海省の省都、西寧を出発し、標高5000メートルの山々を18時間かけて越え、6日午前0時にマチュに到着。2日滞在し、7日に再び山越えで同仁を経由し西寧に戻った。

 マチュに向かう正規のルートは道が舗装されているが、大規模な検問がいくつも敷かれていた。外国人がそのルートをたどることは即拘束を意味する。検問をすり抜けるため、警備が甘いと言われる山越えルートを選んだのだ。

 だが、山越えは私にとって過酷なものだった。現地人の運転手、通訳とともにドイツ製の乗用車に乗り、山道を駆け上ったが、標高が上がるにつれて異常なほど喉の渇きを覚え、水を飲んでは30分おきに用を足した。息もうまくできず、車の乗り降りだけで息が切れ、立っていられない。高山病の初期症状である。

 さらに、山越えルートにも要所要所に検問が設置されていた。

 事前の打ち合わせで、通訳からは「取材中、あなたは中国人になりきりなさい。それがあなたの安全につながる。検問では、何を聞かれても一言も発してはいけない」とクギを刺されていた。そこで私は、事前に汚いコートを着込み、何日も風呂に入らず、浅黒い肌の色となり、現地人になりきった。検問中は後部座席に座り、公安がのぞき込んでも決して目を合わせなかった。

 マチュでの撮影は、すべて「隠し撮り」だ。武装警官の姿は至るところにあり、不審者に目を光らせていた。カメラを構えての撮影など自殺行為で、その場で逮捕となる。そのため、コートの内側にカメラを隠し、通訳と前後左右を確認し、歩きながらシャッターを切った。

 つねに危険と隣り合わせのなか協力してくれた通訳や関係者には感謝の気持ちでいっぱいだ。そんな関係者らへの被害を避けるため、今回のリポートは匿名とした。お許しいただきたい。

投稿日: 2008年05月19日

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