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「かねやんぐうたら読書」『手塚治虫傑作選 家族』
手塚さんが産経新聞に『鉄腕アトム』の新作を連載中、文化部に配属された私は、東京・練馬の虫プロへ、原稿をもらいにしばらく通ったことがある。
当日の締め切りだから朝10時ごろ行くと、すでにスタッフと仕事中の手塚さんは、ニコニコと愛想よく「間もなくできますから、ちょっとあちらで待ってください」と言う。
“あちら”とは、2段ベッドが何脚も据えられた別棟の部屋で、数人の雑誌編集者がごろごろ寝転んでいた。毎日締め切りの新聞は優先的にもらえるが、月刊や週刊のマンガ雑誌などの場合、泊まりこんで順番を待つのである。
お昼になると、「カツどん」「天どん」「カレーライス」などと書かれた札が配られる。各人が好きなものを選んで注文してもらう仕組みで、私も相伴にあずかったことがある。
当時、全くマンガに関心がなかった私は、手塚さんが死後も神様のように尊敬される存在になるとは露思わず、後年、カツどんよりサイン入りの漫画一枚でも貰っとけばよかったと、さもしく悔やんだものである。
この傑作選は、「アトム」や、やはり人気シリーズだった「ブラック・ジャック」などから家族愛をテーマに10編を選んでいる。「地球を呑む アダジオ・モデラート」では米国の人種問題、「グランドメサの決闘」では、同じく米国の西部劇から資本主義の矛盾、「山の彼方の空紅く」は自然保護を訴えている。
なるほど天才とは未来を予見する人のことだな、と、先の見えなかった凡才は思う。 (金田浩一呂)

