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清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(11)ライフネット生命(上)異キャリアの3人の男の出会い
保険金未払い問題の影響などもあり、変額保険やがん保険など一部商品を除くと、新規契約の減少が続く生命保険業界。がん保険など単品型商品を主力とした外資系生保や損害保険子会社が相次いで参入した自由化前後からすでに15~20年、ここに来て「ネットで契約者を募集し、ネットで加入申し込みをする」ネット専業生保が新規参入し、新たな胎動が起き始めている。
「生命保険は家を買うのと同じで、長期にわたって信頼関係を築けるかどうかが加入時の大きなポイント。ネットという売り方は今の時代の流行とはいえ、対面に替わり生保販売の主流になるとは思えない」
ある大手生保の幹部は軽く一蹴してみせる。とはいえ、そう語る本人も「新規契約が減り続けている現状では、数パーセントといえどもネット系に契約が流れるのは正直痛い」と眉を曇らせる。
生保の場合、証券分野のようにネット専業のウエートが劇的に高まることはないものの、昨今のような厳しい状況下、心配は心配だということのようである。
今回、新たにネット専業で船出したのは、SBIアクサ生命とライフネット生命の2社。SBIアクサはSBIホールディングスとフランス生保大手の日本法人アクサジャパンホールディングスの合弁会社。これに対し、ライフネット生命はバックに外資系を含め生保会社が存在しないだけでなく、親会社と呼べるような大株主もいない。それだけにライフネット生命に、より大きな注目が集っていると言っていい。
ライフネット生命は、3人の年齢もキャリアも異なる男たちが遭遇したことから生まれた。遭遇の仕方が違っていたら、多分、まったく異なる会社が生まれていた可能性が高い。極端に言えば生命保険でなかったかもしれないし、生命保険でもまったく違うコンセプトのものになっていたかもしれない。
仕掛け人となったのはそのうちの1人で、独立系運用会社「あすかアセットマネジメント」のトップを勤めるとともに、ベンチャー投資を手がける谷家(たにや)衛。今年45歳。アメリカ系投資銀行のやり手トレーダーとして名を売り、現職に転じた人物である。当然、鵜の目鷹の目で投資対象となる会社、経営者、あるいはその卵を探していた。
谷家の鋭ぎすました感覚に引っかかったのは、渡米中に読んだある日本人留学生のブログ。谷家はブログの主の熱烈なフアンとなり、この学生が何か事業を起こすならば全面的に支援しようと考えていた。
留学生は岩瀬大輔といい、ボストン・コンサルティング・グループなどに勤めたあと私費留学していた。谷家はボストンまで尋ねていき、岩瀬から「生命保険会社をつくりましょう」という程度の話を聞いただけで、とりあえず自社に採用してしまった。2006年1月のこと。岩瀬は30歳になったばかりだった。
そこで谷家は、生命保険に強い男を求めてまた動いた。伝手をたどって行き着いたのが日本生命の子会社にいた出口治明である。日生で国際部門、企画部門など主要部門を歩き、岩波書店から『生命保険入門』という本を出したくらい生保業界に通暁している。
谷家と出口が会ったのが、06年の3月末のこと。もちろん初対面である。
「出口さん、私の会社へ来て、一緒に生命保険会社を立ち上げませんか」と声をかけられたのだという。出口はそのとき58歳、それにしては乗りがいい。「いいですよ」と即座に答えた。
出口は以前から暖めていたプランがあり、谷家に説明した。谷家は構想のリアリティーに感動し、出口―岩瀬のコンビで事業化すれば必ずうまく行くと確信したようである。
出口が言う。
「どんな準備をしないといけないですか―と聞かれたので、日生から人を連れて行くようなことはしたくない、保険を知らない若い人が欲しいですね、と答えたところ、実はぴったりの人がいるのです。会ってみてくださいというわけです」
言うまでもない、それが岩瀬だった。4月に岩瀬はとんぼ返りでアメリカから帰ってきて出口に会い、互いにパートナーとしてやっていけると確認する。
このとき、岩瀬は独自の生保会社設立プランを持参してきていた。しかし三十数年、保険の世界で生きてきた出口の構想のリアリティーには及ぶべくもない。また企業規模も2桁違っていた。
こうして出口のプランに基づいて、新しい会社が動き出すことになる。準備会社の設立は、この年の10月。想像がつかないほど、スピードは速い。 =敬称略
(経済ジャーナリスト)
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ネット専業生保として今年5月18日に営業開始。マニフェストの冒頭には、ネット専業らしく「『生命保険はむずかしい』そう、言われる時代は終りにしたい」とある。資本金は132億20万円(うち66億10万円は準備金)。株主にマネックス・ビーンズ・ホールディングス、あすかDBJ投資事業有限責任組合、三井物産、新生銀行など。本社は東京都千代田区麹町。社長は日本生命出身の出口治明氏。
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