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清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(8)吉野家ホールディングス(中)長期成長の基軸は中国事業
世に牛丼好きは多く、中には「吉野家のものしか食べない」という熱狂的ファンも少なくないようだ。友人にも週に3回は吉野家で牛丼を食べるという男がいて、ラーメン好き、カレー好きといつも喧々諤々、B級グルメ論争を繰り返している。アメリカ産牛肉の輸入再開まで、牛丼販売をじっと我慢し続けた安部修仁社長と吉野家経営陣の姿勢を強く支持したのもこの牛丼狂とでも呼ぶべき層であり、販売再開以降ここ3年間、吉野家の来店客数が確実に前年度比プラスを維持してきているのも、まず彼らのおかげであると言って間違いなかろう。
しかし、この人たちも大切だし、この層の厚みをさらに増す努力を続ける必要は不可欠だが、吉野家ホールディングスが企業グループとしてさらに成長を遂げていくには吉野家の牛丼頼み、国内の牛丼ファン頼みだけでは限界があるのも事実。先月のBSE問題は比較的短期間で収束したものの、今後、米国産牛肉の仕入れに関してどういうリスクが待ち構えているか分からない怖さがあるからなおさらだ。
2004年2月からおよそ31カ月に及んだ牛丼販売の休止は、吉野家にとり実に大きな試練だった。とはいえ、今後の経営次第でもあるが、マイナス面だけではなく、経営変革の大きなチャンスをもたらし、タフな企業体質に構造変化する好機を与えたと前向きに評価してもいいのではなかろうか。
吉野家事業から見ていくと、ひとつには否応なしの側面もあるが、メニューの多様化がなされた点である。木津治彦広報担当によると「国内吉野家の全売上高に占める牛丼の割合は半分強、残りのさらに半分を売り上げるのは豚丼であり、ほかにも牛すき鍋など定番メニューが育ってきています」という。つまり、リスクの高い牛丼一本足経営から脱却しつつあるのだ。
もうひとつは、客層の変化。牛丼ファンは従来18歳から35歳の男性中心で、それも徐々に高齢化しつつあった。グループ戦略を担当するホールディングスの加藤建司専務は「弱年齢層、女性層を呼び込む努力が必要になっていた。そこで新フォーマットの店を開発、若い女性や家族連れも入りやすくした。おいしい牛丼を食べてみたいという女性も多かったようで、今では女性客が15~20%まで伸びてきています」と語る。ここでも経営リスクの分散が進んでいるのだ。
こうしたことを軸に、06年度を初年度とする4カ年の中期経営計画では、初年度末には1022店だった国内の吉野家を1340店にまで増やし、売上高(営業収入)も746億円を1040億円まで増やす意欲的目論見となっている。
まだ第2の柱がないという点では成功していると言い難いが、吉野家頼みだったグループ傘下の事業も、M&Aが加速されることで厚みを増してきている。ホールディングス化で経営の機動性が増しつつあり、この面でも成功可能性は高まりつつあると見ていいだろう。「今後ともいい案件があれば、積極的に投資していく」と加藤専務は意欲的である。
しかし、吉野家ホールディングスが何よりも長期的に成長の基軸になると期待しているのは海外、ことに香港、台湾を含む中国での吉野家事業。台湾法人の董事長(会長)をも務める加藤専務はこう語る。
「実のところ従来から、われわれは海外を伸ばそうと言っていながら、言葉ほど力が入っていなかった。マジョリティーを握っている地域法人とそうでないところがあったりしてね。しかし、09年2月予想では、海外吉野家は店舗数380店、末端店舗売上が330億円に達する見通しで、これは国内売上のおよそ半分。しかも前期が25%の伸びだから、国内事業を数年でキャッチアップする見通しだ。中でも中国本土の伸びが大きく、今後ここに特に力を入れていくことになるでしょう」
国内でも有楽町の吉野家のように、入店客1日3000人近い店もあるが、香港や北京、上海などでも同様な店が出ているというから、この市場に力を入れるのは当然と言えば当然。ちなみに中期経営計画最終年度の中国での店舗網は1500を想定している。
「吉野家でアルバイトしている中国の若者は多いし、彼らのなかには帰国してビジネスをはじめたいと考えている人も少なくない。彼らの発想は合理的だし、われわれと融和することも可能だと思う。彼らを教育して、未開拓の市場である重慶とか武漢へも出て行き、中国でのビジネスをさらに伸ばしたいと考えています」と加藤は意欲的である。
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伝統的に吉野家は米国産牛肉を用いてきた。というのも米国産肉牛は初期、草で育てられるが、ある程度生育すると穀物中心となり、ほどよく脂がのってくる。対して草だけで育つとどうしても、赤身の固い肉になってしまう。それで米国産にならざるを得ないのだとか。
しかもこの肉を、さらに一味異なるタレで煮込む。聞いてみるとタレの費用でもっとも構成比が高いのはブルガリア産白ワイン。肉といえば赤ワインだが、そうでないところにファンを引きつける吉野家の牛丼の秘密があるのだろう。しかもその味は今も、日々進化しているのだという。
(経済ジャーナリスト)
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