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清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(10)サッポロHD(下)那須に隠された秘策
先週木曜日、アデランスで経営陣続投が株主総会において否決された。投資ファンド、スティール・パートナーズ・ジャパンが経営努力への懐疑を前提に再任拒否を呼びかけ、これに他の大株主が同調した結果だ。経営改革努力が株主側の目に見えず、数字に改善が見られなければ、経営者はクビ! 当然と言えば当然のことだが、スティールにTOBを仕掛けられている各企業に、緊張感が走ったことは言うまでもないだろう。
そうしたなかで、昨年10月に発表した「新経営構想」を粛々と遂行していくだけとしているのがサッポロホールディングス。すでにサッポロではいくつかの点、例えば所有するウエスティンホテルの売却、サッポロ飲料への投資ファンド資金の導入など、目に見える形で経営改革が進んでいる。これら諸施策に関してはスティール側も評価している。
しかしサッポロホールディングスに課せられている最大の課題は、傘下事業のうち最主力のサッポロビールの売り上げ拡大、収益力改善だ。このために不可欠なことは、ここ数年、4社のうちでもっともヒット商品が少ないという状態の改善。これなしには業績の大幅改善は見込めず、買収株数を引き下げたとはいうもののスティール側の攻勢は続くと考えられる。
外観を見るかぎり、観光施設か郊外型レストラン。工場という感じがまったくしないサッポロビール那須工場。5億円で製造設備を購入、18億円で改造したこの瀟洒な工場に、実は課題とされるビール市場攻略、新商品開発に関する、サッポロの秘策が隠されている。
1階のビアレストランに入ると、バイキング料理とともにサッポロの誇るさまざまなビールが、工場から直だしの新鮮さで味わえる。このレストランには「黒ラベル」「ヱビス」などメーンブランドはもちろん用意されているが、お勧めはなんといっても那須工場オリジナルの「那須 森のビール」。プレミアムタイプの「ピルスナー」「ヴァイツェン」「ドゥンケル」の3種類が揃えられており、いずれも個性的な味で、ビール党には堪らないはずである。
お勧めはまだある。従来、首都圏でしか樽生が飲めなかった濃色の「琥珀ヱビス」や、こだわりの飲食店にしか出荷していない「エーデルピルスナー」、首都圏のごく一部のレストラン、飲食店に限定している「プレミアムホワイト 白穂乃香(しろほのか)」がそれ。このうち「白穂乃香」は小麦と大麦の麦芽をブレンドし、香り華やかで、味もまろやか。クリーミィな泡立ち。酵母が生きていて、まさに生ビールという佳品である。いま首都圏の、それも東京、横浜、川崎の、量がある程度はけて、しかも基準にあった品質管理が可能な店のみに限定して出荷、店側から引く手あまたといわれる人気商品である。
「この工場では、大量生産型の他の工場だと効率的ではない小ビンや135mlや250ml缶を生産できる。工場配置を見直してきた当社として、全社的な生産合理化を進めるにあたって極めて有効ということで、銀河高原さんから設備を購入したわけです」
ホールディングストップも合意の上のことである。サッポロビール経営戦略本部長の市川淳一常務はそう語ったうえで、さらに次のように付け加えた。
「それだけでなく、もうひとつ大きな狙いがある。情報発信。ここは小ロットで機動的に新しい商品を作ることができ、しかも付属のレストランですぐに来園者に味わってもらうことが出来る。ビールの楽しさを消費者の方に知ってもらい、サッポロファンを増やしていく。 さらに、われわれは事業ドメインのひとつに食品価値創造事業ということを掲げているが、これからのビール産業はニッチな市場をいかに攻略していくかという時代。そうした時代に合った個性的で、一定のユーザーをしっかりつかんだ商品を、ここで見きわめながら市場に送り出していきたいと考えています」
「ヱビス」を長年かけて、プレミアムビール市場ダントツの1千万ケース商品に育て上げたサッポロのノウハウが、その場合、生きることは言うまでもない。ビール市場が転換期に来ているいま、年間製造能力1万キロリットルの小さな森の工場に、新市場創造にかけるサッポロの大きな夢と希望が託されている。
(経済ジャーナリスト)
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サッポロホールディングスは、2007年10月に、創業140周年に当たる16年を最終年度とする「グループ新経営構想」を発表した。「潤いを創造し豊かさに貢献する」を経営理念とし、グループの事業ドメインを「食品価値創造事業」と「快適空間創造事業」の2分野とする。
07年度4490億円の連結売り上げを6000億円に、同営業利益は123億円を400億円にというのが数字目標で、実現のためには「高付加価値商品・サービスの創造」「戦略的提携の実施」などの戦略が掲げられている。
スティール・パートナーズのリポートなどを読むと、ところどころ厳しい論調がうかがえる。サッポロ経営陣としては、計画実現には売り上げの7割を占める国内ビール事業の建て直しに全力を傾注する以外にない。「黒ラベル」の復調機運など明るい材料が見えつつあるだけに、踏ん張りどころだ。
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」新しい出発(1)USJ(上)
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」新しい出発(2)USJ(中)
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