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清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(9)サッポロHD(上)切り札は新工場

清丸惠三郎 会社は経営者と社員のものという考えが根強かった日本の企業にとって、TOBで株式を買い集め、株主の意向を強く訴える投資ファンドの出現は衝撃であり、ぬるま湯につかっていた経営者をまさに覚醒させた。とはいえ投資ファンドがどこまで本気で企業再生を目指しているのか危うい感じもないではない。早期の投資資金回収を課せられている彼らには、時間のかかる企業再生より資産売却、事業売却こそ狙いだと考えられるからである。

 投資ファンドに狙われた企業トップは、それゆえ大いに悩まざるをえない。軍門に下るか、徹底抗戦か。サッポロホールディングスの村上隆男社長は、まさにそうした悩みを抱えたトップの1人だと言ってよい。記者会見などでも、揚げ足をとられたりしないようにだろう、それこそ冗談ひとつ言えない様子は見ていて実に気の毒である。

 それにしてもサッポロほど、ファンドにとり狙い目の会社がなかったのも事実だ。恵比寿ガーデンプレイスや銀座の旧本社跡のビルなど優良資産を有し、キリンもアサヒも垂涎のビアレストラン事業を傘下に置く。なおかつ本業でもプレミアム分野の雄「ヱビス」を持っている。

 業界は、1、2%の謹差でビール分野のシェア争いをしているキリン、アサヒに、何とかビール事業を黒字化したいサントリー。3社ともに資金力はあり、買収に乗り出す動機もなくはない。サッポロ株買い占めに走った投資ファンド、スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンドはこうしたことから、少なくともホワイトナイトが出現、株の高値売りぬけが可能だろう、仮にそれが出来なくても、資産や優良事業売却で悠々と元は取れると考え、TОBに走ったのではなかろうか。

 が、ホワイトナイトは出現せず、サッポロ経営陣は徹底抗戦を選択し、話し合いはつづいているが、今に至るまで諸問題は決着を見ていない。

 とはいえサッポロがスティール側の要求を等閑視しているわけではないようだ。例えば飲料会社に他の投資ファンドの資金を導入するなど、従来と異なる動きに出ている。主力事業のビール事業でも同様だ。そのひとつが、「森のビール工場」とネーミングされて昨年秋に動き出した那須工場である。もっともサッポロ関係者は「いずれもスティールを格別意識してのものではない」と語る。そうであるにしろ、サッポロは硬軟ふたつの策を使い分け、タフな戦略でスティールに対応しようとしているのだと見えなくもない。

 新しい工場は、栃木県の観光保養地として知られる那須のほとんどド真ん中というべきところに立地している。東北本線黒磯駅から車で15分ほど、東北自動車道那須インターより5分。さらに工場脇の那須街道を直進すると、20分ほどで那須湯本温泉に行き着く。

 工場はそうした立地を意識してか、西洋館のような外観になっている。観光工場のイメージと言ってもよい。元々は銀河高原ビールの工場だったものに手を入れたのである。

 なかに入るともっと驚く。入った正面がビールや地元那須のお土産品が並ぶショップで、左側に行くと1000人はゆうに収容できるビアレストラン。円形階段をのぼると、奥にビール作りが体験できる「手作りビール工房」があり、1階のビアレストランを眺め下すようにシックなカフェラウンジが作られている。

 その奥には、仕込み室を巡るようにビール作りの工程が見学できるコースがしつらえられている。ここで初めて、訪れた人たちはビール工場だと改めて分かるのである。

 工場稼動は昨年秋からだが、来客施設などはこの4月のオープン。ビアレストラン「那須 森のビール園」を運営するサッポロライオンの我孫子力支配人は、「ゴールデンウイークは、観光バスの誘致などが間に合わなかったにしてはまずまずの数字だった。7月には塩原にアウトレットモールがオープンするし、観光バスの導入も進んでいるので、夏休み以降は相当の人出が期待できる。今年度20万人の来客を見込んでいるが、それは最低限の数字だろうと思います」と語り、来客に関してはすこぶる強気である。

 首都圏にも近く、交通の便が良い上に、後背地は大観光地那須。サッポロビール園や新九州工場など、工場由来のビアレストラン事業で実績のあるサッポロだけに、那須のビール園事業もまた成功確率が高そうである。

 だが、この工場の最大の狙いは実はそこにはない。
 (経済ジャーナリスト)

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サッポロホールディングス
 ビール業界第3位のサッポロビール、清涼飲料のサッポロ飲料、ビアホールなどを経営するサッポロライオン、不動産関連の恵比寿ガーデンプレイスなどを傘下に置く純粋持ち株会社。

 歴史は古く、1876(明治8)年にできた開拓使麦酒醸造所が母体。札幌麦酒、大日本麦酒などをへて、サッポロビールに。2003年より持ち株会社化。主力のビール分野では「スーパードライ」の登場とともに業界3位に転落。最近はサントリーの追い上げに苦しむ。

 一方で、07年2月からはスティール・パートナーズの買収提案に晒されている。

 第3のビール市場を開いた「ドラフトワン」が一例だが、本来は商品開発力のある会社だ。

清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」新しい出発(1)USJ(上)
清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」新しい出発(2)USJ(中)
清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」新しい出発(3)USJ(下)
清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(4)ミサワインターナショナル(上)
清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(5)ミサワインターナショナル(中)
清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(6)ミサワインターナショナル(下)地産地消で活性化
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投稿日: 2008年06月12日

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