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山本一力さん-本能へたらせた現代人

 借金返済のために作家を志し、いまや月24本の連載を抱える売れっ子の山本一力さん。豊富な人生体験に裏打ちされた人情時代小説は多くの読者を魅了するが、新刊の時代小説『いすゞ鳴る』では一転して、精神世界を前面に出した。人生の達人、現実主義者の山本さんも今年で還暦。心境の変化? 新境地に挑んだ思いを聞いた。

――これまでの人生経験から大変な現実主義者というイメージがありますが
 「おれに霊的な経験はないが、見えるものしか信じない、という狭量なことを言っていたら成り立たないことがきっと出てくる。リアリストであればあるほど、それは理解できる」

――昔から見えないものも信じてきた
 「神様の怖さは自分の中の戒めとしてある。嘘をついていても、神様にバレてると思うことでかかる歯止めもあるしね」

――小説では不漁に苦しむ鯨獲りたちが、最後には夢のお告げに従います
 「一所懸命やったから報われるわけではない。でも見返りがないからといって鍛錬しないわけにはいかない。人事を尽くして天命を待つというけど、やるだけやってもダメなら自分たちで鯨を呼び込むため何でもするしかない。そこには、いまの政治屋のような小賢しい知恵はありません」

――運を引き寄せる努力
 「江戸時代の人たちは純粋に第六感を信じていたと思う。自分たちができることはたかが知れているわけだから、本能を研ぎ澄ませて感じたことを信じるしかない」

――現代は第六感よりデータ。情報がすべてですね
 「いまの人間の方が人としては異常ですよ。インターネットや携帯を駆使するようになってからは、どんどん本能をへたらしちゃって、体も生き方も大きく変質している」

――本能をへたらす?
 「例えば、人間の基本となる体ですが、人類の歴史上、いまほど飢えずに済む時代はない。人間の体は長年、消費より蓄えることに重きを置くようになってるのに、それを無視して食べ続けたら当然バランスがおかしくなる。だから糖尿病も増えてくる。本能をへたらせないためには体を鍛え、仕事の鍛錬を怠らず、飽食せずにひたすら生きていくだけです」

――小説で描かれる「御師(おんし)」は、かつての山本さんの仕事ですね
 「御師とは江戸時代のツアーコンダクター。自分もツアコンをしていたので、あの時代の御師は絶対、霊能者だと思う。それはあの時代、まず本能的に気象が読めなければダメだし、凡庸だったらたくさんの人を引率できないもの。ツアコンの本分は連れいった人を無事に連れて帰ること。後はおまけなんだから」

――では、作家の本分は
 「書き続けることです。物書きですから、それ以外は全部おまけ」

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物語
 お伊勢参りの旅の便宜を図る「御師(おんし)」は、いわば江戸時代の霊的能力を秘めたツアーコンダクター。旅人は安政の大地震被害を受けた江戸庶民と、不漁に苦しむ土佐の鯨漁師たち。天変地異に翻弄される庶民の祈りの旅を人情味豊かに描く。

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やまもと・いちりき
 1948年、高知県生まれ。旅行代理店、広告制作会社、コピーライターなどを経て、97年『蒼龍』でオール読物新人賞を受賞。01年『あかね空』で直木賞受賞。

「いすゞ鳴る」

投稿日: 2008年06月14日

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