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日本の病巣~ひきこもる大人たち(11) 心の病は完治待つより職場環境の中で治療を

 会社も家庭もある大人たちがなぜ、家から出られなくなるのか。
 神経生物学の観点から、高次神経機能の解析を行っている、東北大学大学院医学系研究科の曽良一郎教授は最近、引きこもり状態の男性を治療した。

 患者は、有名企業に勤務していた30代の事務職系社員の江口さん(仮称)。家族は、妻と息子の3人暮らしだった。

 江口さんは毎朝、妻の運転する車で送られ、会社に通勤していた。ところが、会社の門の手前で、体が動かなくなる。結局、彼は、出社できなくなって引き返し、自宅に戻るという日々が連日、続いていたのだ。

 すでに江口さんは有給休暇を使い果たし、長期間休んでいた。曽良教授は、会社の産業医から、こう引き継いだという。 

 「会社としては、彼が非常に優秀だったこともあり我慢していた。完全に完治させた上で復職させたい。ただ、これ以上長引いて復帰できないようなら退職させたい」

 曽良教授が診たところ、彼はうつ病と診断され、会社側の「完全治癒させたい」という意向を受けた産業医から、精神刺激のリタリンをはじめ複数の薬を投与されていた。

 だが、曽良教授は男性の症状に合った抗うつ剤1種類だけにした。すると、彼の気分も次第に上向き始め、症状も落ち着きを見せた。しかし、江口さんは、なかなか会社に行けなかった。

 そこで、比較的弱い精神安定剤の抗不安薬を追加してみた。しばらくすると、江口さんは会社の手前まで行っても、顔がこわばることがなくなった。その後、少しずつ出社できるようになって、いまでは普通に勤務している。

 「会社に行ったら、きちんと仕事しなければならないと思う半面、きちんと仕事ができる自信がない。そんな葛藤(かっとう)に悩んでいたんだと思います。うつ病に罹りやすい性格の方は、非常に真面目。完璧主義者も多いんです」と、曽良教授は指摘する。

 心の病は一般的に、体の治療のように完治してから復職させるよりも、職場環境の中で治療を進めるほうがプラスになる場合も多いのだ。

 「座っているだけでもいい。途中で早退してもいい。とにかく行ってみて」との説得で、江口さんは再び、出社できるようになった。

 次号、そのメカニズムを解説する。


日本の病巣~ひきこもる大人たち(1)
日本の病巣~ひきこもる大人たち(2)
日本の病巣~ひきこもる大人たち(3)
日本の病巣~ひきこもる大人たち(4)残業中、緊張の糸が切れ
日本の病巣~ひきこもる大人たち(5)会社の流れに乗り損ね
日本の病巣~ひきこもる大人たち(6)正義感がアダ、こじれる関係
日本の病巣~ひきこもる大人たち(7)上司の詰問に涙…
日本の病巣~ひきこもる大人たち(8)皆がパソコンに向かい無言
日本の病巣~ひきこもる大人たち(9)ネット生活で素リズム狂い
日本の病巣~ひきこもる大人たち(10)進まぬ再就職… 次第に無気力に

投稿日: 2008年06月23日

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