この記事を読む方におすすめの記事
今!気になるレビュー
大前研一のIT時評「ドコモの新社長への戦略提案」
テーマ3:NTTドコモの新社長に山田隆持氏が就任した。
私が会長をつとめていたマッキンゼーは、ドコモがNTT移動通信網だった時代に社長の大星公二さんから頼まれて戦略を練ったことがあります。端末の売り切りやiモードの原型となるプランを提唱し、それを大星さんが強力な指導力で実行したことで、ドコモはいまの隆々たる地位を築き上げました。
そこで、「もしも私が山田新社長からドコモのコンサルティングを頼まれたら」という視点で、ドコモの“反転策”を考えてみましょう。
まず、ドコモの現状を見てみます。現在、売り上げ、利益とも低迷していると言われますが、2007年度の営業利益率は17・2%でソフトバンクの11・7%、KDDIの11・1%に比べても高い。利益剰余金も3兆円近くあります。純増数では他の2社に負けていますが、契約者数自体は増え続けています。1ユーザーあたりの月間平均収入(ARPU)も2社より高いという状況です。
ところが株価は、ここ数年一貫して低迷しています。利益を少し吐き出してソフトバンクと戦えればいいのですが、利益を吸い上げたいNTTの持ち株会社が自由にさせてくれない点がネックになっています。
現在のNTTは、光回線を各家庭まで引き込み、ドコモの携帯電話を自宅の電話の子機のようにして使うという固定電話と携帯電話の融合プランを考えています。ドコモにとっては減収要因ですが、光回線が普及するためNTTグループ全体の収益向上にはつながるというわけです。
では、山田さんに雇われたら、私はどうするか? まず、ドコモが強い部分を考えてみましょう。
ここで注目したいのはドコモの契約者数、5354万人という数です。これはJCBの会員数より多く、NTT東西を足した固定電話の契約者数よりも多い。企業別サービス利用者数ではトップです。
この契約者数とドコモのインフラを生かせるビジネスといえば、第1に「認証・決済業務」、第2に「課金業務」です。電話料金の競争でソフトバンクと泥仕合をするよりも、自分が有利なフィールドで戦うのです。
認証・決済業務としては、銀行(モバイルバンク)、入出金、カード決済、コンテンツビジネス、電子認証などのビジネスが考えられます。
また、モバイル広告への課金業務も有望です。5000万人以上の人が触れるメディアですから、テレビの視聴率で言えば50%。NHKの紅白歌合戦を軽く超える数字です。広告を見てもいいと了承した人には携帯電話料金を割り引く制度を適用しても広告収入で十分にお釣りがくるでしょう。
一方、ドコモが不利になるビジネス展開とは何か? まずは一斉値引き。1人100円値引きしたら全体で50億円の損失になります。イー・モバイルが行っているような、ニッチな分野でのセグメント戦略や定額制なども、巨大なドコモには不利になります。
逆に、富裕層を対象としたコンシェルジェサービスなどは有利でしょう。ドコモには比較的富裕な顧客が多いので、その利点を資産運用や旅行相談などに最大限生かすことです。
企業規模を背景にすれば海外の電話会社や金融機関と有利な交渉ができますから、海外通話料金の定額化や海外の銀行口座、クレジットカードなどへのネットワーク拡大も図れます。
ドコモはネットワークが充実しているので、インフラを事業者に貸し出すMVNO事業や、機械間で通信する「M2M」―自販機が定期的に残り本数を本部のコンピューターに報告する通信網など―の市場も有望です。
NTTが、インフラの完全開放などを条件に何かと縛りの多いNTT法の廃止を実現すれば、これらのビジネスはやりやすくなります。山田新社長が今後、持ち株会社とどう折り合いを付けていくか、カギを握るのはソフトバンクではなく親会社、ということになるでしょう。
---------------------
ビジネス・ブレークスルー(スカイパーフェクTV!757チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。
