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瀬名秀明「イヴのみる夢」(38)「医工学」が生んだ人工網膜

瀬名秀明 失われた視覚を復活させる……未来の人工視覚というと、どんなイメージを思い浮かべるだろうか? 以前は小型カメラを取りつけた特殊なメガネを装着し、コードを脳につなぐというごつい印象があったが、もしかすると未来のサイボーグ技術は、ほとんど健常人と変わらない眼で失明から私たちを救い出してくれるかもしれない。そんな研究に挑むのは、この4月に世界で初めて医学と工学の融合を看板に掲げた「医工学研究科」を発進させた東北大学のグループだ。

 失明者の6割を占める白内障と緑内障については、医学的な治療法が発展しつつある。しかし第3位の失明原因である「加齢性黄斑変性症」は医学的な治療が不可能といわれてきた。それは網膜の奥にある視細胞が死滅するので、目に入ってきた光を電気信号に変換して脳に伝えることができないからだ。そこで人工の網膜をつくり、光の刺激を電気信号に換えるシステムが世界中で求められてきたのだが、小さくする技術が難しく、一部の機能をメガネに入れ込む必要があった。

 現在の集積回路は平面上に配線されている。だが3次元に配線を積み重ねる技術を開発すれば、チップも飛躍的に小さくなるはずだ。東北大学はこのようなナノテクノロジーの分野で世界の先端を走っており、その技術を人工網膜に応用しようという試みも進められている。このチップを使えばわざわざ特殊なメガネをかける必要はない。すばやい眼の動きにも対応できると、開発に取り組む医工学研究科の田中徹教授はいう。

 医学は目の前の患者さんを治す使命があるので、きちんとした理論検証は後回しになりがちだ。しかし工学者は素材の選定を含めてベストな性能を追求しようとする。両者の長所を組み合わせて、いま医学と工学という異分野がタッグを組み、新たな医療が生まれようとしている。

 現在の人工網膜チップは白黒画面にしか対応できない。しかし5年後にはカラーにしたいと田中教授は意欲を燃やす。医工学の今後に期待しよう。

■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(37)未来技術の"予言"を一般公募
(36)感情スイッチで皮膚に紋様
(35)蛇のように膜でドライアイ防止
(34)未来の福祉ロボットのヒント
(33)他者の痛みが分かる「感情移入」能力
(32)セクシー美女が大バクチを呼ぶ
(31)骨伝導で語学学習や音楽を堪能
(30)体格と性格の相関をメタボ対策に応用
(29)お菓子感覚でキッズサプリ
(28)ご飯のお供にワクチンふりかけ
(27)歩くだけで5ワット! 人体発電機
(26)ミトコンドリア・ダイエット
(25)肥満解消に魔法の弾丸
(24)脳に埋めたチップが支援
(23)遺伝子操作で神経回路オン・オフ
(22)細胞をプリンターで印刷
(21)家禽の遺伝子改変で抑制も
(20)脳を活性化するサービス
(19)日本語は感染症予防に効果的!?
(18)心の痛みに効く処方
(17)“予知”能力もトレーニングできる
(16)「ゆらぎ」を活用する生命
(15)標識付きウイルスで伝播追跡
(14)父親から受け継ぐ「寿命の回数券」
(13)人類のⅠ型糖尿病も同じ!?
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」

投稿日: 2008年07月02日

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