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瀬名秀明「イヴのみる夢」(39)脳の"可塑性低下"うつ病の原因

瀬名秀明 「精神疾患は、がんと並んで大きな国民負担となっている国民病である」といわれるとドキリとするが、いま日本で3万人を超える自殺者のほとんどは精神疾患によるものといわれている。治療法の確立は未来の医療にとっても急務の課題なのだ。

 特に人口の約6%がかかっているうつ病と、約1%の双極性障害(旧称・躁うつ病)は関心が高まってきている。どちらも原因は単純ではないが、最近になって脳の「可塑性」に関連して新しい仮説が出てきている。

 かつて脳の神経細胞は、一度つくられたらもう死ぬまで変化せず、老いとともに細胞は失われてゆくばかりだと思われていた。ところが大人になっても神経細胞はつくり直され、それが脳の働きに重要な役割を果たしていることがわかってきて、いまこのことが脳科学でホットな話題となっている。

 うつ病では脳の海馬という部位に障害が現れるのだが、ここで神経に栄養を与えるBDNFという因子の量が減っていることが発見された。ストレスによって海馬の栄養因子が減り、シナプスの可塑性(つくりかえ能力)が低下してしまうことにうつ病の原因があるのかもしれない。この栄養因子は脳の部位によって作用が違うらしく、まだ一概にはいえないが、海馬という部位が私たちの「気分」をつくっている可能性はある。

 双極性障害でも神経細胞内のミトコンドリアや小胞体といった小器官がおかしくなって、うまくエネルギーを使えず、神経のつくりかえ能力が障害を起こしている例が見つかってきている。しかしいったい、私たちの「気分」とはどうやって決まっているのだろう?

 うつ病と双極性障害は「気分障害」と呼ばれる。「気分」はあらゆる情動の基本で、とっさの恐怖心や日々の嫉妬、恥、誇りといった社会的な感情にも強く影響する。周囲の明るさにも敏感に反応しているらしい「気分」の神経系だが、その実態はまるでわかっていないのだ。

 「気分」の謎に迫ることが精神疾患の治療に直結する。今後の研究に期待しよう。

■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(38)「医工学」が生んだ人工網膜
(37)未来技術の"予言"を一般公募
(36)感情スイッチで皮膚に紋様
(35)蛇のように膜でドライアイ防止
(34)未来の福祉ロボットのヒント
(33)他者の痛みが分かる「感情移入」能力
(32)セクシー美女が大バクチを呼ぶ
(31)骨伝導で語学学習や音楽を堪能
(30)体格と性格の相関をメタボ対策に応用
(29)お菓子感覚でキッズサプリ
(28)ご飯のお供にワクチンふりかけ
(27)歩くだけで5ワット! 人体発電機
(26)ミトコンドリア・ダイエット
(25)肥満解消に魔法の弾丸
(24)脳に埋めたチップが支援
(23)遺伝子操作で神経回路オン・オフ
(22)細胞をプリンターで印刷
(21)家禽の遺伝子改変で抑制も
(20)脳を活性化するサービス
(19)日本語は感染症予防に効果的!?
(18)心の痛みに効く処方
(17)“予知”能力もトレーニングできる
(16)「ゆらぎ」を活用する生命
(15)標識付きウイルスで伝播追跡
(14)父親から受け継ぐ「寿命の回数券」
(13)人類のⅠ型糖尿病も同じ!?
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」

投稿日: 2008年07月09日

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