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「かねやんぐうたら読書」井上ひさし著『ボローニャ紀行』
井上ひさしさんには連載などをお願いをしていた。その度に、社の幹部のいる席で「金田さんに頼まれると断れません」と言ってくれるので、私は大いに面目をほどこすことになる。
氏が直木賞を受賞した1972(昭和47)年、受賞会見で代表質問をしたのが私で、「やさしく訊いてくれたから」と言うのだが、とんと覚えがない。難しい質問などできないし、口数が多くて代表質問と間違われたかな、とも思うが、そうではあるまい。
先週、五木寛之氏の苦労人らしい気配りの話を書いたが、井上さんも五木さんに劣らぬ苦労をした気配りの人であることは、氏の読者ならご承知だろう。
この本は、ヨーロッパ最古の大学があることなどで有名なイタリア北部の街の旅行記。着いたその日の空港でたばこを吸っているとき、大金などの入った鞄を盗まれる。奥さんに電話すると「イタリアは職人の国だから泥棒だって職人なんです」と以前、ナポリで停泊中の米潜水艦が盗まれた話を聞かされる。
井上さんらしく、おもしろい話にはじまるが、後は一転。ボローニャは、市民がナチス・ドイツ軍とイタリア・ファシスト軍と戦って自力で解放、革新自治体として発足した街であることなど、これも著者らしくまじめな話題になる。
欧州で職人技術というと、私などドイツやスイスを思い浮かべる。このボローニャの職人企業が、伊藤園の日本茶の自動ティーバッグ包装システムや、日本製のコンドーム包装機械などを入れているとはちょっとした驚きであった。 (金田浩一呂)
