この記事を読む方におすすめの記事
今!気になるレビュー
清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(13)喜多尾塾(上)自分の目で見て考え、スローフードに商機
実にユニークな個性と言うべきだろう。「喜多尾塾」代表の喜多尾将秋(56)のことである。大学に入る前から起業を志し、20歳代で「ほっかほっか亭」のフランチャイジーから始めて、ビデオレンタルの「CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)」とスーパー銭湯チェーン「極楽湯」を展開する「自然堂」(じねんどう)という業種的には何の関連もない上場企業を2つ創業した実績を見れば、なまじっかのキャラクターではありえないのは当然である。
しかし、そのキャラクターの現れ方が、そうした実績を踏まえておおかたの人が想像するであろう縦横斜めに切れまくる油断ならない辣腕というのではなく、茫洋として捉えどころがない点に喜多尾の類例のないユニークさがある。風貌もまたそうだ。
奈良市の中心部、近鉄奈良駅から南に向かってふたつの商店街が延びており、西側の一本、小西さくら通りに近鉄不動産が開発したしゃれたレストラン&商業ビル「な・ら・ら」がある。その1階にさる4月2日、玄米菜食を売り物とするこぎれいなレストランがオープンした。店名は「こころ」。喜多尾が現在、本拠としている喜多尾塾の新しいチェーンストア・ビジネスの最有力候補が玄米菜食レストラン「こころ」のチェーン展開であり、その記念すべき第1号店がこの店なのである。
喜多尾が玄米菜食、要するに健康食レストランに目をつけたのにはいくつかの理由がある。最大の理由は、喜多尾が自然堂を辞める前後に体調を悪くしたことがあったのだが、玄米食と出合ったことで食生活が改善され、健康を取り戻した。
「こうした素晴らしいものを多くの人に食してもらい、健康になってもらいたい」と、そのとき喜多尾は心底から思ったのだという。思い定めると、彼は玄米食、スローフードの専門家に会っていろいろ話を聞く一方、自分なりの感性でマーケティングリサーチを展開していった。ビデオレンタルを始めたときもそうだし、極楽湯を始めたときもそうだが、体験をもとに、自分の目で見、考え、可能性を見出していく、いわゆる帰納法的手法が喜多尾の得意手なのである。理論からは絶対に入っていかない。
調査の結果、食の安全・安心が主婦だけでなく、多くの人の関心事になっていること。そうしたなかで従来のファストフードからスローフードへと食のコンセプトが着実に変わりつつあること。一方で、世の中が高齢化社会へと転換しており、単身家庭も急速に増えていることなどを確認する。そこで喜多尾は、玄米菜食のレストラン、それも収入面で制約がある高齢者が気楽に入れる安価な店であれば、確実に将来性があると読んだ。
求められる安全、安心、かつ安価を可能にするために、まずメニュー開発を自前で行う必要があったし、同時に仕入れも地産地消型に切り替える必要があった。マニアックな自然食・健康食レストランが高価なことはご存じの通りである。こうした面で喜多尾の右腕になったのが、自然堂時代から部下だった松尾高良。松尾は奈良での1号店出店が決まると、喜多尾塾が借りた奈良市内のマンションに泊まり込み、他のスタッフとともにメニュー開発に取り組む一方、仕入れ先との交渉に入った。
「何が難題だったかというと、メニュー開発。喜多尾は最初の1カ月、ランチを500円で出せ。それも日替わりだという。私も料理の素人ですし、他のスタッフも専門家とよべる者はいませんから、ともかく四苦八苦しました」と松尾。部下への無理難題は創業者の得意とするところである。
「な・ら・ら」に第1号店を開くことに決めたのは、喜多尾が物件を探し回り、日中には人通りも多く、レストランビルということで集客力も悪くないはずと考えたからである。
「3カ月たって計算どおりの面と、計算と違った面があります」と松尾は語る。計算通りの面は、女性を中心に確実にマーケットがあることが確認でき、特にランチ時は想定を上回る数字になっていること。
確かに昼食時はなかなかの込みようだ。筆者も試してみたが、玄米がこんなにおいしいとは思わなかったし、「蓮根のハンバーグ」などなかなか美味だった。
対して計算が違ったのは、弁当の売り上げが伸びないことと夜の来店が少ないこと。商店街は8時を過ぎるとバタッと人通りが少なくなってしまうのだという。
「奈良の店はまだ実験段階だし、メニュー開発などで人手をかけている。通常のコストのかけ方にすれば、十分採算が取れると考えています」と松尾。
対して喜多尾はすでに、「こころ」に関して次の一手に向かって走り出している。とにかく動きは早い。 =敬称略
(経済ジャーナリスト)
----------------------
きたお・まさあき
1951年、奈良県生まれ。銭湯などを手広く営んでいた祖父に憧れ、高校時代から起業を目指す。京都産業大学時代からアルバイトに励み、27歳で夫人とともに「ほっかほっか亭」関西1号店をオープン。宅配サービスなどを充実させることで初期の苦難を乗り越え、売り上げ10億円の会社に育て上げる。
次いでビデオレンタルに着目、持ち帰り弁当事業は弟に任せてそちらに専念。カシオと協力しビデオ・顧客管理システムを開発、これが蔦屋書店の増田宗昭氏(現・CCC社長)とともにCCCを共同創業する契機に。CCCでは代表取締役専務として主として首都圏・東日本のフランチャイジー開発に当たるが、増田氏と経営に関する意見が食い違い退社。
だが、日本カラオケスタジオ協会専務理事のとき、たまたま出かけた日帰り温泉で、癒やしの時代における成長事業としてのスーパー銭湯に出合い、「極楽湯」チェーンをスタート。30店舗展開、店頭公開企業にまで成長させるが、病気などもあって投資ファンドに売却。今また新たな事業に挑む。
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」新しい出発(1)USJ(上)
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」新しい出発(2)USJ(中)
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」新しい出発(3)USJ(下)
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(4)ミサワインターナショナル(上)
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(5)ミサワインターナショナル(中)
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(6)ミサワインターナショナル(下)地産地消で活性化
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(7)吉野家ホールディングス(上)BSE禍に負けず着実に進化
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(8)吉野家ホールディングス(下)長期成長の基軸は中国事業
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(9)サッポロHD(上)切り札は新工場
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(10)サッポロHD(下)那須に隠された秘策
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(11)ライフネット生命(上)異キャリアの3人の男の出会い
■清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(112)ライフネット生命(下)シンプルで分かりやすい商品
