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清丸惠三郎「企業戦略ウォーズ」(14)喜多尾塾(下)"のれんわけ"へ走りながら戦略
今年4月2日に、奈良市内に玄米菜食のレストランチェーン「こころ」1号店を開店したばかりの喜多尾塾代表の喜多尾将秋は、このところ連日、大阪近辺を走り回っている。言うまでもなく「こころ」をチェーン展開するための好立地ポイントを探すためだ。
すでに自宅からほど近い吹田市内に適地を1カ所確保した。ただ奈良の店がイートイン形式というかレストラン主体で、テークアウト(持ち帰り)の弁当は従なのだが、吹田では逆にテークアウトが主で部分的にイートイン機能を付けることになるかもしれないと、喜多尾は語る。
「ロケーションは住宅地のロードサイドにあってなかなかいいのだが、レストランには少し狭い。かといって持ち帰り専門店にするにはちょっと広すぎる。ならば部分的にイートイン機能を入れたらどうかなと。とはいえ中途半端なものはあかんしね。9月早々にはオープンしたいので、そろそろ結論を出さないといけないのですが」
「こころ」2号店の運営は、スーパーに勤めていた喜多尾の長男にやらせる予定だ。すでに呼び戻して、奈良の店で住み込みの形で修業させている。3号店は場所こそ未定だが、極楽湯時代の部下で店長経験者の1人に任せるつもりだ。彼もまた奈良店で研修中である。
こうして見ると、玄米食を核にした健康食チェーンを展開しよう、そのために店舗運営の責任者を育てていこうという喜多尾の狙いはよく理解できる。
だが、最終的に店がレストラン型なのかテークアウト型なのか未定だし、メニュー開発やサービスマニュアル確立もまだ道半ば。そうした状態でチェーン化は可能なのだろうかと、つい心配してしまう。
「大事なのは喜多尾の独特の感性というか、能力なんです。例えば極楽湯を30店まで増やしたところで、ある日突然、これ以上出店しないと言い出した。多くの役員は驚いて、社長は正気じゃないなんて言って反喜多尾側に回った。こうしたこともあり、喜多尾は悩んだ末に極楽湯(自然堂)の株をファンドに売り払ってしまった。しかし今、あらためて見てみると、喜多尾時代の30店は収益を上げているが、新規に出店したところは芳しくない。喜多尾の見通し、勘は正しかったわけです」
自然堂(極楽湯)時代から喜多尾の下で働いてきた松尾高良はそう語り、喜多尾の手法に万全の信頼を寄せる。つまり「こころ」についても、数店舗出したところで路線が整理され、明確な方向性が確立されると見ているのだ。走りながら、成功する戦略体系を作っていくのが喜多尾流というわけである。
松尾は現在、喜多尾塾の事業再建部の責任者の地位にある。喜多尾塾のビジネスの1つに温浴施設のビジネス・コンサルティングがあるからだが、7月からは株式会社心の代表取締役という別の肩書が付く。この会社は「こころ」チェーンの本部機能を担う会社で、喜多尾塾と松尾ほかの出資が決まっている。
今後のチェーン展開について、喜多尾はさまざまにアイデアを絞っている。立地に関してはすでに触れたようにCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)や極楽湯の展開で自信を持っているので、自ら物件に当たって探していくようだが、フランチャイジー募集に関しては“暖簾わけ”方式を念頭においている。
どういうことかというと、将来、独立したいと熱望する若者を「こころ」で受け入れ、月5万円の小遣いで働いてもらう。その間の食事、宿泊場所は会社側が提供する。本来の給与との差額は積み立てられ、1年後に新しい店の出店資金に充当する。もちろん1人の資金では無理なので、2人で組んで出店してもらう、などといったシステムを構想しているようだ。この間、店経営を任せられる人材かどうか、喜多尾がその目でチェックすることは言うまでもない。
「僕はもう若者が大企業で働く時代は終わったと思っている。若い人は独立し、家族と一緒に商売をするのが一番いい。その一つのモデルが玄米菜食の『こころ』というわけです。ただし従来型のフランチャイズビジネスのように、本部だけが儲かるような仕組みはダメ。『こころ』では、家族全員で健康にもよく、高齢者に喜ばれる食事を提供し、毎日を楽しく暮らす。本人と家族の努力が続く限り商売は続けられるし、努力と力量に応じて店を増やしていくこともできる。そうした仕組みを目指します」
CCCと自然堂という2つの上場企業を創業した喜多尾将秋は、56歳の今また、大きな夢を抱き新たな人生を開花させるべく動き出している。 =敬称略
(経済ジャーナリスト)
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(株)喜多尾塾と(株)心
喜多尾塾は、喜多尾がスーパー銭湯チェーンの自然堂を売却した資金を活用するためなどを目的に設立した投資会社。とはいえ、ただ単に金儲けすることだけが目的ではない。
「僕はね、若い人が元気になるような、若い人にチャンスを与えるような、つまり太陽のような役割を果たす、そうしたビジネスをやれないかと考えているんです」
資本金9000万円で、2004年に設立された。大阪市西淀川区が本社。
心は、この7月に設立予定の会社で、玄米菜食のレストランチェーン「こころ」を展開することなどが目的。代表取締役は松尾高良で、資本金は当面1000万円。本社は奈良市。
事実上、喜多尾塾がインキュベーターとして全面的にバックアップする第1号。喜多尾の心の中には、「こころ」以外にもまだまだ構想が渦巻いているようだ。
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