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北京五輪大丈夫か〈治安編〉当局が恐れる民衆蜂起

「網民」炎上 8月8日の北京五輪開催まで1カ月に迫った。中国にとって、もっとも輝かしいはずの年が、ギョーザ事件にチベット騒乱、聖火リレー妨害、四川大地震、貴州暴動…と信じられない災禍の連続に見舞われている。果たして五輪は無事開催できるのか? 治安や環境、食の安全など山積する課題を、中国問題に詳しいジャーナリスト、富坂聰氏と2日にわたって検証する。まずは治安、そして政権を揺るがしかねない世論の動向について。

■北京厳戒
 「報道だけが盛り上がっている。北京市民は冷めているというより五輪本番まで大災害やテロやもう1つ何かあるんじゃないかと恐れている」。最近、北京を訪れた富坂氏はこう語る。

 警備当局は、北京の街頭に26万台以上の監視カメラを設置。6月末から本番並みの警戒態勢に入り、地下鉄全93駅に1000台超の金属・液体探知機、200台のX線検査機を導入し、2000人強の係員が全乗客を検査している。駅では、ひっきりなしに探知機が鳴り、大混雑だ。

 「空港なみの物々しい検査に、市民にはここまでして五輪をやらなきゃいけないのかとの空気が強い」(富坂氏)

■3つの脅威
富坂聰氏 軍部はウイグル、チベット独立派、気功集団「法輪功」を「3つの脅威」と名指しする。ウイグル独立派については、五輪選手の誘拐や食品、爆弾テロを画策したとして65人を逮捕。3月に騒乱が起きたチベットでは1100人超の身柄を拘束し続けた。

 6月17、21日には、このウイグル、チベットの地を聖火ランナーが走った。コースは大幅に短縮され、沿道は迷彩服の武装警官で固められた異様なリレーだったが、国営新華社通信は「聖火の旅は円満に終わった」とたたえた。

 胡錦濤政権は最大の“難所”を越えたと思っただろうが、一息つくヒマもなく、28日には思わぬ死角から火の手が上がった。

■地方の不満
 西南部の貴州省で28日、「政府幹部の息子が起こした女子中学生暴行殺害事件を隠蔽した」とのウワサから数万人規模の暴動が起きた。住民らは役所や警察車両に火を付けた。鎮圧部隊に数人が射殺され、300人以上が逮捕された。

 貴州省は中国でもっとも貧しい地域の1つだが、今年初めに大寒波に見舞われた際、役人が支援物資を横流ししたともいわれる。

 「政府が一番恐れていた事態が起きた。地方は中国の“闇”。不正は日常的に横行し、ガス田のように不満がたまっていた。貧しさと権力への嫉妬という怒りに油を注ぐ要素がそろい、火がついた」と富坂氏。

 省政府は暴動参加者を徹底摘発する一方、「鉱物資源開発や立ち退きで住民の利益を侵し、警察力を濫用した」と地元トップの県党委書記や公安局長らの罷免を決め、怒れる住民をなだめるほかなかった。

 暴動から3日後には再捜査結果が公表されたが、「性的暴力の痕跡はなく、中学生は自殺だった」との内容に住民の不満はくすぶり続けている。

■「網民」炎上
《金持ち、権力者は何でもできる腐敗社会》
《民衆の怒りを知ったか!》

 貴州の暴動直後からネットには非難の書き込みがあふれた。当局は暴動の画像が掲載されたサイトを相次ぎ閉鎖。メディアの独自報道も規制された。

 それでも、ネットの騒ぎは収まらない。政府にとっての「もう1つの脅威」は「網民」と呼ばれる2億人のネットユーザーの声かもしれない。

 四川大地震のときも地方行政の腐敗を批判する書き込みでネットは炎上、政府が火消しに躍起となった。

 「役人へのワイロを工面するため、おからのようにもろい手抜き工事が行われ、小中学校が倒壊。無数の子供の命が奪われた」との怒りは現場の父母だけでなく、ネットを通じて大勢の国民に共有された。被災地の綿竹市トップの書記は土下座して市民にデモ中止を懇願した。

 ネット上では地方幹部のつるし上げも起きた。被災地入りした胡錦濤主席と温家宝首相の後ろでこび笑いを浮かべた綿陽市党委書記の写真が掲載され《主席も首相も泣いたが書記は笑った》と集中砲火を浴びた。

 胡主席は6月20日、人民日報本社を訪れ、同社サイトの掲示板「強国論壇」の網民に向け、「書き込みには真剣に目を通し、研究するつもりだ」と網民におもねるメッセージを送った。強国論壇は愛国的立場から批判を展開する「憤青」と呼ばれる網民の巣窟で、火だねの1つだった。

■“権力狩り”へ
 「転換期にある中国では暴動が頻発し、失業者らが五輪期間中に実力行動に出る可能性を排除できない」―政府系シンクタンク、中国社会科学院が今年の情勢を展望した「社会青書」の指摘だ。

 この分析を受け、政府は五輪施設周辺の生活保護受給者を「危険分子」として調査。不満を訴えるため各地から北京に来た陳情者の一斉拘束も始め、6月下旬の1日だけで100人以上を拘束する強行策に出た。

 ただ、おひざ元の北京では取り締まりができたとしても、いまの胡政権に地方の暴動や網民の炎上を根絶する手立てはない。

 「民衆は自分たちのパワーを自覚し始めた。政府の締め付けで揺り戻しがあったとしても、貧しさと嫉妬という動機があるかぎり、怒りが向かう方向ははっきりしている。アリの大群のように押し寄せる人々には誰もかなわず、大衆による“権力狩り”になる。民主化というよりむしろ清朝時代に逆戻りしたようだ」。富坂氏はこう懸念する。五輪開催中はなんとか押さえ切れたとしても、その後に“大爆発”が起きる可能性は高まっている。

投稿日: 2008年07月15日

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