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北京五輪大丈夫か〈環境編〉 消えぬ空気、水、食への恐怖

 北京五輪開催まで、あと1カ月。ここにきて中国国内の情勢不安が目立ってきたが、それ以前から指摘されていたのが空気や水、食の安全の問題だ。今年初めには毒ギョーザ事件が発覚、6月には水上競技会場で藻が大量発生…。悪環境を懸念し、競技直前まで北京入りを控える選手も続出している。中国政府は五輪期間中、北京の経済活動を止めるほどの力技で環境改善を図るが、五輪後の経済への影響も懸念される。昨日の「治安編」に続き、ジャーナリストの富坂聰氏と環境、食の安全を検証する。

■藻の襲来
 ゴルフ場の芝生かと見まがうほどの緑が一面に広がる。五輪ヨット競技会場の山東省青島市沿岸は6月から藻の大量発生に見舞われた。同市によると、1万3000平方キロもの範囲に影響が及んでいるという。

 市は住民ら1万人を動員、1000隻のボートで連日除去作業を続けるが、藻は日々成長するため、取っても取っても減らない泥沼状態。藻の海にはまり死者まで出ている。

 富坂氏は「工場排水の垂れ流しによる水の富栄養化が原因の1つ。今年にかぎらず、クラゲや赤潮など、毎年この時期には何らかの異常発生が起きている」と指摘する。

■死の大気
 さらに深刻なのが大気汚染だ。中国紙は「大気汚染で年間30万人が死亡している」と報じた。4月に北京で開催されたマラソンの五輪テスト大会に参加した選手らもレース後、「ウエアが真っ黒になった」と振り返った。

 マラソン世界記録を持つエチオピアのゲブレシラシエ選手は大気汚染を理由に五輪不参加を表明。オーストラリアは陸上選手を開会式に出席させない方針を決めた。競技本番まで北京入りを避ける選手は相次ぎ、日本で最終調整を行う国は24カ国に上る。

 日本オリンピック委員会(JOC)は潜在性のぜんそくで倒れることがないよう全選手に呼吸器検査を実施。検査機器を北京に持ち込み、防塵マスクも常備する方針。まさに命がけの北京行である。

■空気浄化作戦
 五輪本番を青空で迎えるため、北京市は10年前から汚染源となる167の工場を郊外に移転させる、力ずくの対策を進めてきた。

 鉄鋼大手「首都鋼鉄集団」は50年間燃やし続けた高炉の1つを閉鎖。年間800万トンの生産量を今年は420万トンに抑え、この7―9月は月産20万トンに激減させる。隣接する河北省も計1160本の煙突を廃棄する。

 直前の対策はさらにすさまじい。90年代に製造され排ガス量の多いクルマ30万台は、7月1日から北京市内への乗り入れが全面的に禁止された。公用車も7割の使用を制限。20日からはナンバープレートの偶数、奇数で走れる日を分ける規制を始める。市当局は「一連の規制で排ガスを63%削減できる」と胸を張る。

 富坂氏は「北京の道路はガランガランになるのではないか。一時的だが、確実に北京の空気はよくなるだろう。少なくとも選手にとってはいい」と語り、本番は何とかしのげるとみる。

■食の面子
 「米選手団は自国から食品を持ち込む」―この報道に北京市当局は神経をとがらせた。市の報道官は「北京五輪で出す食事の安全性は国際基準よりも厳しい」と語気を強めた。

 中国の「食の安全」は海外から最も非難されてきただけに毒ギョーザ事件の発生は政府にとって衝撃的だった。政府幹部は「ギョーザ問題は構造的な食品安全事件ではなく個別の事案。五輪食品とは何の関係もない」と何度も打ち消した。

 五輪で出す食品に関しては、食材段階からICタグを付けて管理。選手村の厨房まで何重ものチェック体制が設けられた。「『問題が起きたらクビ』と言われており、企業も役人もみんな必死。採算は度外視され、五輪後につけを払うことになる」(富坂氏)。

 環境や食の安全対策は全国に行き渡るのか。富坂氏は「汚いものを垂れ流しても低賃金でモノを生産する『世界の工場』の立場を捨てられるとは思えない」と指摘。「企業は、生産コストを上げるより罰金を払うほうがいい。地方行政側も雇用や税収の確保が大事なので、取り締まりよりも集金感覚で罰金をとるほうがいいと考える。地方は何も変わらない」と語る。

■格差の行方
 20日からは土木工事や化学工場の操業を2カ月間停止させる強硬措置にも乗り出す。環境対策に加え、治安の不安要素にもなる出稼ぎ労働者を締め出す市の思惑もみえるが、市当局は「労働者は北京に工事がなければ当然ほかの地に行く。ごく正常な動きだ」とうそぶく。だが、富坂氏は「こうした人の動きが混乱を招き、さらなる不安材料を生む」と指摘する。

 四川大地震では、寄付しない金持ちはネットであしざまに批判され、企業や有名人は競うように100万元(1元15円)単位の寄付をした。だが、皮肉にも「庶民は金持ちたちの財布の中のすごさを見せつけられた」と富坂氏。

 国の威信をかけ、胡錦濤政権は五輪施設や環境、食の安全対策に湯水の如く金を投じた。庶民にもたらされたのは物価高だけで、食品価格は1年で17%上昇。豚肉の値段は2倍に跳ね上がった。富坂氏は「『国の税金を北京だけに大量に投入するのはおかしいんじゃないか』と地方で不満が高まるだろう」とみる。

 「多難興国」。四川の被災地で温家宝首相は学校教室の黒板にこう大書した。多難な国の民は奮起して国は栄えるという意味。いま、政府首脳にどれだけその確信があるだろうか。

 「五輪はもはや『国威発揚』『中華の祭典』などではなく、ここまで来たらやらざるを得ないという『重荷』になっている」と富坂氏は言う。中国は建国以来最大の正念場を迎えている。

北京五輪大丈夫か〈治安編〉当局が恐れる民衆蜂起

投稿日: 2008年07月17日

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