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瀬名秀明「イヴのみる夢」(42)再生医療の未来をひらく(2)
イモリは脚を切っても元通りに生えてくる。失われた骨や皮膚や筋肉が再生するのだ。私たち人間にはイモリのような能力はないが、肝臓の一部は手術で切り取っても元通りになることが知られている。皮膚も毎日再生され、古くなった細胞は垢として剥がれ落ちている。小腸の絨毛もつくり替えられている。
私たちはこうしてつねに体を再生しており、その奇跡を担っているのが「体性幹細胞」と呼ばれる細胞なのだ。大樹の幹から多くの枝葉が広がってゆくように、この幹細胞は体のあちこちにあって、傷などで失われた部分の細胞へと変化し、再生する能力がある。
たとえば神経細胞をつくるのは神経幹細胞だ。失われた肝臓を再生するのは肝幹細胞であり、骨髄にあって赤血球や白血球などに分化してゆくのは造血幹細胞である。このように体内にはいくつもの幹細胞がある。
造血幹細胞の移植はリンパ腫の治療に役立つ。脊髄の損傷部位に神経幹細胞を移植すれば、新たに神経細胞がつくられて、少しでも体を動かせるようになるだろう。しかし幹細胞がどのような体内環境で維持されているのかはよくわかっておらず、幹細胞だけを都合よく取り出して扱うのは大変だ。しかも大人になった私たちがいきなり会社員からスポーツ選手へ転向できないように、成人の体性幹細胞も役割がおおよそ決まっていて、造血幹細胞から神経細胞をつくることは難しい。
では、幹細胞の大樹のさらに根元を考えよう。私たちは1個の受精卵から生まれてきた。受精卵は分裂して2つの細胞になり、4つ、8つと増えてゆく。受精してから4~6日後、ちょうど6、7回分裂すると、初期胚と呼ばれる状態になる。この内部にある細胞はこれからどんな種類の細胞にもなり、私たちの体をつくるのだ。この幹細胞の総元締めというべき細胞ならば、いろいろな部位の治療に使えるのでは?
それがここ数年話題を呼んだES細胞(胚性幹細胞)なのである。次回はこのES細胞が持つ大きな可能性と問題点について見てゆこう。
■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(41)再生医療の未来をひらく(1)
(40)応用範囲広し"テラヘルツ波"
(39)脳の"可塑性低下"うつ病の原因
(38)「医工学」が生んだ人工網膜
(37)未来技術の"予言"を一般公募
(36)感情スイッチで皮膚に紋様
(35)蛇のように膜でドライアイ防止
(34)未来の福祉ロボットのヒント
(33)他者の痛みが分かる「感情移入」能力
(32)セクシー美女が大バクチを呼ぶ
(31)骨伝導で語学学習や音楽を堪能
(30)体格と性格の相関をメタボ対策に応用
(29)お菓子感覚でキッズサプリ
(28)ご飯のお供にワクチンふりかけ
(27)歩くだけで5ワット! 人体発電機
(26)ミトコンドリア・ダイエット
(25)肥満解消に魔法の弾丸
(24)脳に埋めたチップが支援
(23)遺伝子操作で神経回路オン・オフ
(22)細胞をプリンターで印刷
(21)家禽の遺伝子改変で抑制も
(20)脳を活性化するサービス
(19)日本語は感染症予防に効果的!?
(18)心の痛みに効く処方
(17)“予知”能力もトレーニングできる
(16)「ゆらぎ」を活用する生命
(15)標識付きウイルスで伝播追跡
(14)父親から受け継ぐ「寿命の回数券」
(13)人類のⅠ型糖尿病も同じ!?
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」

