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瀬名秀明「イヴのみる夢」(40)応用範囲広し"テラヘルツ波"
突然発生した火災現場に救命医が到着した。彼らはすばやくポケットから小さな道具を取り出して、避難者たちの服の上に先端部分を押し当て、測定を始める。これは特殊な半導体レーザーを照射する火傷診断装置なのだ。ここから出るテラヘルツという電磁波は服やガーゼを通り抜けて、皮膚の状態をその場ですばやく計測する。医師たちは火傷の大きさに応じて救助活動をてきぱきと進めてゆく。
10年後の未来社会のキーワードは、ずばり「テラヘルツ」かもしれない。テラヘルツ波はいま私たちが利用している電波と光通信波の中間に取り残された未開発の領域で、大きな可能性を秘めている。日本でその研究開発の先端を走っているのが理化学研究所のテラヘルツ光研究プログラムチームだ。
テラヘルツ波は物質を透視できる。理研チームが最近開発した装置は、封書の中に隠された麻薬を1秒間に3通の速さで発見できる。税関検査で大いに活躍するはずだ。偽札判別や空港の危険物検査にも応用できる。
さらにテラヘルツ波は水分量のわずかな違いを測定するのが得意だ。光ファイバーならぬテラヘルツファイバースコープを使って胃壁を検査すれば、医師が見落としがちな小さな癌(がん)組織も水分の分布から発見できる。食品や医薬品が変質していないかどうか、品質管理にも使えるのだ。
癌を診断するときも、いまは体内から組織を切り出してきて、複雑な方法で切片から水分を抜き出し、癌の部分を染色している。しかしテラヘルツ波を使えば、水分を含んだままの組織をすぐに検査できて診断も早くなる。切り取ってくる組織も小さくてすむから患者さんの負担も少なくなる。
水分量がわかるなら、肌のうるおいだって検査できるのでは?と考えたあなたは鋭い。いずれハンドバッグの中から小さな装置を取り出して、ボタンひとつ押せばいまの肌の状態がわかる時代がやってくる。10年後、テラヘルツはデート前のチェックに欠かせない身だしなみアイテムになっているだろう。
■瀬名秀明「イヴのみる夢」
(39)脳の"可塑性低下"うつ病の原因
(38)「医工学」が生んだ人工網膜
(37)未来技術の"予言"を一般公募
(36)感情スイッチで皮膚に紋様
(35)蛇のように膜でドライアイ防止
(34)未来の福祉ロボットのヒント
(33)他者の痛みが分かる「感情移入」能力
(32)セクシー美女が大バクチを呼ぶ
(31)骨伝導で語学学習や音楽を堪能
(30)体格と性格の相関をメタボ対策に応用
(29)お菓子感覚でキッズサプリ
(28)ご飯のお供にワクチンふりかけ
(27)歩くだけで5ワット! 人体発電機
(26)ミトコンドリア・ダイエット
(25)肥満解消に魔法の弾丸
(24)脳に埋めたチップが支援
(23)遺伝子操作で神経回路オン・オフ
(22)細胞をプリンターで印刷
(21)家禽の遺伝子改変で抑制も
(20)脳を活性化するサービス
(19)日本語は感染症予防に効果的!?
(18)心の痛みに効く処方
(17)“予知”能力もトレーニングできる
(16)「ゆらぎ」を活用する生命
(15)標識付きウイルスで伝播追跡
(14)父親から受け継ぐ「寿命の回数券」
(13)人類のⅠ型糖尿病も同じ!?
(12)「し忘れ」と「し間違い」の脳科学
(11)体外離脱でメンタルヘルスケア
(10)仮想空間で運動障害をリハビリ
(9)「アルツハイマー病予防で残りの人生謳歌」
(8)「ロボットと運動する楽しさ」
(7)「ペットが分身に?」
(6)「オヤジ臭さ」撃退!
(5)「人間の脳と機械の体を"融合"」
(4)「自分の脂肪でケータイ充電」
(3)「自分の一部を機械が操作」
(2)「ゲノム情報を読み取る」
(1)「ミトコンドリア占い」


