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さらば初代新幹線・0系 44年間の終着駅へ出発
1964(昭和39)年10月の東海道新幹線開業以来、世界最高速レベルの超特急として44年間走り続けてきた初代新幹線「0系」が、ついに今年11月末で完全引退する。新幹線と聞けば、誰もがまず青と白に塗り分けられた丸い団子鼻の「0系」を思い浮かべるはず。その引退を前に、JRは開業当時の姿を可能な限り再現した。この夏休みは、0系への郷愁にひたれる“最後のチャンス”だ。その見どころや歴史を、作家の小牟田哲彦氏が乗車リポートとともに寄稿してくれた。
■山陽新幹線「こだま」に残る0系
現在、0系が運行されているのは新大阪以西の山陽新幹線区間。最後に残った3編成が、いずれも「こだま号」として最後の務めを果たしている。残り少ない0系列車の中から、私(小牟田)は新大阪発「こだま639号」博多行きに乗ってみた。
この列車は午前7時47分、福山発の上り「こだま620号」として新大阪に到着し、わずか12分後に博多へ向けて折り返す。できれば到着前から新大阪のホームで0系を迎えたい。
引退を前に、今年6月から開業当時と同じ青と白の塗り分けが復活した丸いボンネット車両の走る姿を見ることが出来る。新幹線の先頭車の形状はさまざまに進化したが、すべてはこの丸い形状から始まったのだ。
■「想像で造った」夢の超特急
0系が誕生する以前、こんな形の鉄道車両は世界のどこにもなかった。開業当時に旧国鉄の新幹線運転車両部長を務め、その後も新幹線技術の改良に長く携わった鉄道工学専門家の齋藤雅男氏(89)は、「空気抵抗を減らすためにいろいろ考えたが、なにしろ前例がないので想像で造った」という。文字通り“夢”の超特急だったのである。
だが、開業した後も「窓ガラスが割れたり非常扉が吹っ飛んだり」(同)と問題が噴出。それらの問題点をひとつずつ克服していく過程で0系は改良を重ね、開業から86(昭和61)年まで23年もの長きにわたり3000両以上が製造され続けた。
通常、鉄道車両は古くなれば新しい形式に置き換わる。だが新幹線では、古くなった0系を新しい0系に置き換え続けた。齋藤氏によると「(改良により)初期と末期では同じ0系でも大きな差がある」とのことだが、もともと初期型の完成度が高かったのは間違いないだろう。
■車内に残る往時の面影
そんな“優等生”の0系こだま639号は7時59分、定刻通りに新大阪を発車。6両の車内に乗客は30人足らずとやや寂しい。
ガラガラの車内に向けて流れる放送のチャイムは、昭和50年代に導入されたシンプルな4打音バージョン。これも引退を前に復活したものだ(JR西日本では通常、「いい日旅立ち 西へ」のメロディーが流れる)。
この日は車内販売が岡山まで乗務していたが、その後は広島で9分停車する際にホームの売店を利用するしかない。車内にはかつての売店スペースが残っているが、もう使われていない。片隅に取り残されたコーヒーメーカーが“最後の日”を予感させる。
車内には、公衆電話室に張られた黒電話型マークなど、0系全盛の時代をしのばせる面影が随所に見られる。山陽新幹線区間はトンネルが多く、車窓の楽しみが少ないので、逆に車内をじっくり観察するには最適かもしれない。
■俊足の後輩に道を譲る
各駅停車のこだま号は、通過列車を待つための長時間停車が多い。この639号も半数近くの駅で5分以上停車。ときには10分以上停車して、2本の「のぞみ号」や「ひかり号」にまとめて抜かされることもある。
停車駅のホームに立っていると、遠くから轟音とともに通過列車が急接近し、わが0系の真横を矢のように一瞬で駆け抜ける。ホームでその風圧をまともに受けて思わずよろめくことも。「新幹線って、こんなに速かったのか」と改めて感じるが、それは0系の速さではない。
開業当時の0系は時速210キロ。この世界最高速度による長い運行の積み重ねによって「高速運転に関する世界一の技術と経験がさらに蓄積され、平成以降に登場した300系、500系、700系などに着実に生かされた」(齋藤氏)。その結果、いま目の前で0系を追い抜いていくN700系をはじめとする後輩の最高時速は、すでに300キロに達している。
世界最速の0系はもはや昔話である。だが、各駅でホームに押し寄せる通過列車の疾風も、元をただせば0系の技術と経験によるものだ。そう思いながら改めて見直すと、俊足の後輩が過ぎ去るのをじっと待つ0系の姿には貫禄さえ感じられてくる。
■最後の夏を力走
新大阪から12本の列車に追い抜かれた0系こだま号は午後1時9分、定刻通り博多駅に到着。このまま、さらに8・5キロ離れた博多南駅まで在来線として乗っていくことができる。新大阪駅から5時間以上もかかるため、いまや全区間乗り通す客はめったにいないが、この夏、高度経済成長を支えた偉大な初代新幹線の最後の力走を体験してみてはいかがだろうか。

