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働き盛りの中高年を自殺から救え!

 年間の自殺者3万人という未曾有の時代。なかでも目立つのは、働き盛りで一家の大黒柱でもある中高年男性の自殺が増えているという事実だ。生活の不安や職場の人間関係などで「うつ」になり、誰にも相談できないまま自殺を選ぶという痛ましいケースが続発している。そんな「うつ」の中高年たちと日々向き合っている作家、野口敬氏に、「うつ」の現状と自殺対策について提言してもらった。

 私(野口)はインターネット上で「うつ病で苦しむ方のためのブログ」(http://blogs.yahoo.co.jp/utunahitohodotuyokunareru)を主宰しています。このブログには、心が押しつぶされそうな多くの方が這うようにしてたどり着いてきます。

 激務でのストレスでうつ病を発症して退職し、再就職の目途が立たないAさんのケースは深刻です。雇用保険は切れ、傷病手当も支給期限があるため、現在は深刻な生活への不安にも見舞われています。彼は「生命保険をかけたから、これから1年生き延びてから死ねば、保険で妻子は暮らせる」と、親しいブログ仲間に伝えているそうです。

 退職後に熟年離婚して独りぼっちになってしまったBさんには、生きる意味がなくなってしまいました。長年の仕事の無理がたたって肝臓に障害があるBさんにとって、独りぼっちの生活はこたえます。

 Bさんの例は人ごとではないでしょう。家事の一切を奥さんゆだね、仕事一筋に生きてきた男に、食事の支度などできません。Bさんには「むなしさ」などという生やさしい言葉では語れない苦しみが満ちあふれています。

 こんな苦しみを私のブログに切々と書いてくる人に、医療や行政もまったく無策です。Aさんの場合、生活の激しい不安があり、薬を出すだけの医療で治るはずがありません。

 行政も、ケースワーカーを紹介して話を聞くだけ。福祉事務所の窓口では「まだ働けるのだから仕事を探しなさい」と冷たく突き放されます。

 Bさんは深刻な抑うつ状態なのに、医師はまともに話を聞いてくれません。一般の精神科医には心の危機をすぐに見分けるノウハウがないため、わずか3分間ほどの診療で「いつもの薬」をくれるだけです。

 こんな苦しみを抱える人たちに適切な手を打たなければ、彼らは「死んだほうが楽」と思うでしょう。形だけの相談窓口ではなく、「必ず助ける」という強い責任感をもってかかわる専門的な行政機関がなくては命を救えません。

 しかし今、彼らの苦しみを受けとめ支えているのは役人ではなく、同じうつ病の地獄を知り、地獄のふちを見て生還したブログの仲間たちです。

 私がブログを始めて得た結論は、激しい心の苦しみと悩みを抱える人たちが駆け込み、安心して悩みを吐き出せる「場」が必要だということです。医療と行政のすべての関係者が責任を持ってかかわり、一体となって命を救うネットワーク――いわば『心を救うER(救急室)』が必要なのです。

 こうしたシステムがないと、心は救えません。もちろん、医療機関や行政だけでなく、心を支えるボランティアの参画も不可欠です。

 失われてしまった地域や家庭の絆の代わりに『心の絆のネットワーク』を作ること。それが自殺を防ぐために、なによりも喫緊な施策だと痛感しています。
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【「自殺予防総合対策センター」竹島正センター長と野口氏の一問一答】
 急増する自殺を防ぐため、2005年7月、参院厚生労働委員会で「自殺予防総合対策センター」の設置が決議された。06年6月には「自殺対策基本法」も成立し、同年10月、東京都小平市の国立精神・神経センター精神保健研究所に対策センターが開設された。同センターでは現在、どのような活動を行っているのか? 野口氏が同センターの竹島正センター長を直撃した。
     ◇
――自殺予防総合対策センターは何をする機関ですか?
 「政府の定めた自殺予防総合対策要綱に基づき、『いきる』ための支援を行っています。自殺予防には、さまざまな領域からの支援活動が必要です。精神的な問題だけでなく、多重債務者の支援などを行っている機関との連携も必要です。当センターでは、そうした連携についての啓蒙活動も大切だと考えています」

――どうして自殺者の問題がクローズアップされてきたのでしょうか?
 「毎年3万人以上の人が自殺に追い込まれ、しかもその数は年々増加しています。以前は地域や家庭の絆によって抑制されていたのですが、社会構造の変化によって心が追い詰められても見抜けない、助けられない方向に変わってきました。さらに、今後高齢化が急速に進むと、健康の不安や老後の生活の不安などの危険因子も増え、ますます自殺予防対策が急がれてきます」

――中高年男性の自殺が一番多いと聞きますが?
 「昨年の警察庁資料でも、60歳以上が自殺者全体の34・6%を占め、50代が全体の22・5%、40歳代が15・6%と、この世代だけで自殺者全体の73%にもなります。しかも、そのうちの7割が男性です」

――自殺に追い込まれる人はどういう人でしょうか?
 「一言で言えば、『リスクをたくさん持ち』『リスクから守る手段が少ない』人です。経済面の不安に加え、生活の不安や健康の不安、家庭問題などがリスクの因子となります。人をリスクから守る手段は温かい家庭や優しさがある地域社会なのですが、残念ながら社会構造が変わったため、リスクだけがクローズアップされてしまっています。また、リスクから心を守るものとしては、『生きがい』も必要ですね」

――どうやって自殺を防ぐべきですか?
 「自殺にまで追い込まれる人は何らかの危機のサインを出しています。身なりにかまわなくなるとか、アルコール依存になるなど、生活の乱れや破たんが危機のサインです。まず、身近な人がこうした危機のサインに気づくこと。それが自殺を防ぐための大事な一歩です」

――心が追い詰められた人はどうすればよいのですか?
 「一般に日本の男性、とくに中高年男性は相談することが苦手だと言われています。しかし、ご自分の心がクシャクシャになってしまっていると感じたら、すぐにしかるべき機関に相談していただきたい。なによりも心を楽にすることです。そのためにも、できる限り早く相談していただきたいのです」

――どこに相談すればよいのでしょうか?
 「不安の原因によります。経済面なのか健康面なのか、それとも家庭問題なのか、それぞれの問題について専門家が対応することが必要です。もちろん、複合的な原因もありますから、それぞれの専門機関が連携を保ち、自殺の危険が高い人に対して適切な対応が取れるためのネットワークが必要です。相談機関の連絡先については自殺予防総合対策センターのサイトにも掲載しています」
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 のぐち・たかし
 1950年、東京生まれ。パソコン専門紙編集長やIT関連会社企画本部長などを経て独立。パソコン関連書籍や発想法などの著書多数。2005年に出した『うつな人ほど強くなれる』がベストセラーとなり、以後、『うつな人ほど強く優しくなれる』『うつな心を強くするブログの力』(ともに明日香出版社)を出版。「うつ病で苦しむ方のためのブログ」では、かつて激しいうつ病を体験した野口氏が、自分でうつ病を克服した体験に基づき、ブログを利用したグループワーク療法を実践している。急性期における密接な心のケアと「問題解決法」を全面的に取り入れているのが特徴。

投稿日: 2008年10月07日

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