2007年12月16日
桜井鉄太郎「ユメの行方」第1章―第12回
<1975.12.24 下北沢viva non~六本木ラビアンレコード>
クリスマスイブだというのにトキオは憂鬱な面持ちで店のカウンターに肘をついてぼんやりとハイライトをふかしていた。嵐のように過ぎ去った6日間―下北沢viva nonのオープニングセレモニーは大成功のうちに幕を降ろした。
キャパシティ100人そこそこの店に6日で1000人余りもの客がつめかけたのだから、それをさばくスタッフの働きっぷりは尋常ではなかった。まさに日本の音楽シーンに新しい1ページをしるしたといっても大げさでないライブの連続であった。
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2007年12月09日
桜井鉄太郎「ユメの行方」第1章―第11回
<1975.11.13 下北沢珈琲店「いーはもーど」―下北沢viva non>
下北沢の北口を降りると幅2メートルにも満たない狭い路地が格子柄を成していて、個性的なワイシャツの仕立て屋やパン屋、洋家具店、雑貨屋、古着屋などが軒を連ねている。
駅前の食品市場はまだ戦後の闇市場の名残を残しており、モダンとレトロの不思議な混在ぶりがこの街のパワーに結びついているのではないかと、トキオは常々思っていた。
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2007年12月02日
桜井鉄太郎「ユメの行方」第1章―第10回
<1975.08.25 代官山ホットミュージック編集部―浜田山>
うだるような夏の太陽が、ある種暴力的な熱波を呼びこむなか、トキオは代官山のはずれの坂道を大粒の汗を拭いながら黙々と歩いていた。
目的地はホットミュージック編集部。アグレッシブな編集方針で他の音楽誌とは一線を画す誌面は、変わりゆく日本のロックシーンを的確に捉えている。
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2007年11月25日
桜井鉄太郎「ユメの行方」第1章―第9回
<1975.07.05 クィーンレコード 第1スタジオ~荻窪 viva non>
気の抜けないライブが終わった後のビールはことのほか沁み入る。ナイス白井と馬鹿話をしながらトキオは、長澤ノブロウの到着を今か今かと待ちわびていた。前からの約束で、今夜はクィーンレコードのスタジオに連れていってもらえるのだ。川野武臣率いる『ライスプディング』の本邦初レコーディングに立ち会えるなんてラッキーこのうえない。
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2007年11月18日
桜井鉄太郎「ユメの行方」第1章―第8回
<1975.07.04 下北沢南口商店街>
井の頭線の窓から差し込む光には初夏を感じさせる匂いがふくまれていてトキオの心を穏やかにさせてくれる。かたわらにはさっきから一言も喋らない龍さんと西荻viva nonの店長、原敬二が退屈そうに窓の外に視線をやっている。
昼の12時をまわったばかりのこの時刻に3人が珍しくもう行動を開始しているのにはワケがあった。このところ絶好調の売上げをあげている2店のviva nonだが、もはやキャパシティを上回る集客状況となっていて、この際もう1店舗増やして追い風ムードをさらに加速させよう、というオーナーの龍さんの提起が先週の店内会議であり、早速、新天地を「下北沢」に定めてこうしてロケハンに来たのであった。
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2007年11月11日
桜井鉄太郎「ユメの行方」1章―第7回
<1975.05.15 荻窪 Live House:viva non 『夕凪セイラー』Live>
満員のオーディエンスが大熱狂する中、めったにアンコールに応じない箱田が、夕凪セイラーのメンバーと彼の妻でありシンガーのウィンディを伴って再びステージにその姿を現した。上気した表情で箱田は語り始める。「みんな今夜は特別な記念日だ。この店が生んだヒーローを紹介しよう」
トキオは思わず舌打ちした。こんな呼び出し方であの聡太が出てくるわけがない。もっといい方法はないんかい、と思っていると、なんといつのまにか小ぎれいなダンガリーシャツとブラックジーンズに着替えた聡太が満面に笑みを浮かべてグランドピアノに向かって歩を進めているではないか。トキオは我が目を疑った。
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2007年11月04日
桜井鉄太郎「ユメの行方」1章―第6回
<1975.05.15 荻窪 Live House:viva non『夕凪セイラー』Live>
まだミュージシャンが店に入る前のviva nonにはゆっくりした時間が流れていた。コーヒーのいい香りが鼻をくすぐる。ナイスが入れてくれるブルマンはたぶん日本一うまいんじゃないんだろうか?
のんびりとカウンターに頬杖をついて、トキオはいい気になって常連と店の人間にどうでもいいうんちくをたれていた。もうすっかりviva nonの主にでもなったつもりのトキオに、反発している人間も実は少なからずいる。
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2007年10月28日
桜井鉄太郎「ユメの行方」序章―第5回
<1974.09.19 荻窪 Live House:viva non 『ダムエンジェルス』LIVE>
荻窪に着いたときは、もうすっかり日が暮れていた。viva nonの重い鉄の扉をこじ開け店内に入ると、ミュージシャンたちや店の人間が忙しそうにせわしなく動いていた。
「おはよーっす!」
わざとらしく快活に挨拶するトキオを、誰もが眼中にないといった感じで黙殺する。時計を見るともう5時だ。
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2007年10月21日
桜井鉄太郎「ユメの行方」序章―第4回
<1974 09. 19 井の頭公園>
何も考えず見知らぬ街をひたすら歩いた。3時間は無我夢中で行き当たりばったり歩を進めていたら鮮やかな藍色で書かれた看板が目に入った。 『井の頭公園』。トキオは立ち止まった。汗でTシャツが背中にまとわりつく。9月のよく晴れた陽の光が睨み返してくる。
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2007年10月14日
桜井鉄太郎「ユメの行方」序章―第3回
<1974 09.19 荻窪 LIVE HOUSE :viva non ~リオナ邸>
しなやかな指を入念にウォームアップしながらリオナはグランドピアノの前に座った。あまり換気の良くない店内の空気は、すえたウイスキーやタバコのヤニの匂いで淀んでいた。
突然シカゴスタイルのブルースピアノが切り裂くように店内に鳴り響く。眉間に縦皺を刻みながらまるで何かに復讐しているかのように早いパッセージで鍵盤に指を踊らせていくリオナを、背中に鳥肌が立つのを感じながらトキオは凝視していた。
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